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第9話 五歳③

 この魔導書に描かれている召喚の魔法陣には、いくつか種類がある。


 一つ目は、自身を依代にして神を降ろす降神術。

 二つ目は、魔力を触媒に悪魔を召喚する悪魔召喚。

 三つ目は、契約した魔物を呼び出す魔物召喚。

 四つ目は、契約した精霊を呼び出す精霊召喚。


 そもそも、友達を作るのになぜ人間の友達を作らないのかは置いておくとして、自分の肉体を依代にして神を降ろす降神術は、友達を作るという目的から外れている気がするし、契約した魔物も精霊もいない。そうなると、今回試す召喚の魔法陣は限られてくる。


「よし」


 俺は意を決して悪魔召喚の魔法陣を羊皮紙に描くと、魔法陣に触れ魔力を流していく。

 すると魔法陣から黒い霧のようなものが立ち昇り始めた。

 魔法陣から溢れる黒い霧が部屋を覆うと、魔法陣が光り始める。


「さあ、おいで魔界の王子ストラス君!」


 悪魔召喚で呼び出すことのできる悪魔は、ソロモン七十二柱の悪魔と大罪を司る悪魔。

 今回呼び出してみたのはソロモン七十二柱の悪魔の一柱、二十六の悪霊軍団を率いる魔界の王子、ストラス君だ。魔導書によれば、ストラス君は王冠を頭上に乗せたフクロウの姿で現れるらしい。


 部屋に充満していた黒い霧が晴れると、そこには王冠を頭上に乗せた紫色のフクロウが立っていた。

 よく見てみると、片目に六芒星が刻まれている。


 王冠を頭上に乗せた紫色のフクロウ、ストラス君が俺に視線を向けると、羽を大きく広げた。


「我が名はストラス。自然を愛するソロモン七十二柱の一柱さ。私を召喚した君の名を教えてくれるかい?」


 召喚したばかりのストラス君が、俺の方に停まるとそう呟いた。


「ストラス君か、ボクの名前はカナデ。カナデ・セイリュウだよ」

「カナデ・セイリュウか。いい名前だね。それで、君はなぜボクを召喚したのかな?」


 俺はニコリとした表情を浮かべると、召喚したばかりのストラス君に視線を向ける。


「ボクは……友達がいないんだ。ストラス君、君にはボクの初めての友達になってくれないかな?」


 俺が縋る様な視線を向けると、ストラス君はたじろいだ。

 恐らく、こんな小さな子供にそんな事を言われた経験が無かったのだろう。


「悪魔と友達になるなんて本気かい?」

「うん。もちろんだよ!」


 俺がそう言うと、ストラス君は怪訝な表情を浮かべる。


「君は今、何歳なんだい?」

「ボクの年齢? 五歳だよ?」


 するとストラス君が驚いた表情を浮かべた。


「五歳ッ⁉ 君は五歳なんだよね? なんで五歳の君がボクを呼び出す事ができたのかな?」


 そんな事を言われても困る。

 俺は魔導書の通りに、ストラス君を呼び出しただけだ。


「この魔導書に基づいて君を召喚したんだけど……」


 ストラス君は、ストラス君を呼び出した魔導書の元に飛び立つと、一枚一枚、嘴で器用にページを捲っていく。


「ふーん。不思議な事もある物だね?」

「不思議な事?」


 俺がコテンと首を傾げると、ストラス君は楽しそうな表情を浮かべた。


「不思議な事さ。何せ人種の五歳児がボクを呼び出したんだ。最後にボクを呼び出したのは九百歳を超えるエルフだった。それと比べれば異常性が分かると思うんだけれども……」

「そっか! じゃあボクは特別なのかな?」

「そうだね。君はどうやら人種とは思えない程の魔力と魔導書の文字を読み解く知力を持っているらしい」


 その言葉を受け、俺が手をグーパーしていると、ストラス君が俺の肩へと降り立った。


「まあ、でもカナデはボクを呼び出したんだよね?」

「うん。そうだよ?」

「そっか、じゃあ君の魔力の続く限り、この世界に顕現させて貰う事にしようかな?」


 ストラス君が頬を掻くと、俺は笑顔を浮かべた。


「うん! こっちの世界にずっといてくれても構わないよ! それで、ストラス君はボクとお友達になってくれるのかな?」

「へえっ、君は本当にソロモン七十二柱の一柱であるボクと友達になりたいと言うのかい?」


 意地悪な質問に俺はハニカミながら呟いた。


「ストラス君はお友達になってくれないの?」


 すると、ストラス君は羽を器用に動かしながらクスクスと笑い出す。


「気に入ったよ。ボクと君は今日から友達さ。ボクの事を呼びたくなったらいつでも呼んでくれて構わないよ。多分、君なら他の悪魔を呼び出す事ができるから……」

「わかったよストラス君。もう帰ってしまうのかい?」


 何となく、そんな風に感じた俺がそう呟くと、傾いた王冠を羽で止め、ストラス君が呟いた。


「ああ、そうさ、カナデ。ボクは自然を愛するソロモン七十二柱の一柱。これでも忙しいんだよ?」

「そっか……」


 俺が寂しそうにそう呟くと、ストラス君がどこからともなく蒼い宝石の付いたブローチを取り出した。


「このブローチを身に付けているといい。魔力を流せば、簡単にボクを召喚することができる。もちろん、ブローチに魔力を流さなくてもボクの好きなタイミングで現世に出てくることもできるけどね」


 それが悪魔だったとしても、友達から貰った初めてのプレゼントに少しだけ感動を覚える。


「ありがとう。ストラス君」


 俺が笑顔を浮かべながらブローチを受け取ると、ストラス君がポツリと呟いた。


「それにしてもカナデは変わっているね。このボクを呼び出してまで友達を求めるなんて……もしかしてカナデは、人間の友達がいないのかい?」

「ううっ!」


 ストラス君が痛い所を突いてきた。

 友達がいるか、いないか……。

 俺にとって答え難い二択だ。


 広義の意味で……。

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