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第8話 五歳②

「おーい、カナデ。ここに座れ」

「はい。それではよろしくお願いします」

「よし。いくぞ『温風』」


 風呂場を後にした俺は、濡れた髪をカケル兄様の『温風』の魔法で乾かして貰っている。

 カケル兄様は何気に凄い。

 魔法適性は雷属性だけど、他の属性魔法も卒なくこなす事ができる。


 今、掛けて貰っている『温風』の魔法も、火属性と風属性の魔法を掛け合わせてカケル兄様が創ったオリジナルの魔法だ。

 俺が以前、カケル兄様に話した前世にあったドライヤーを参考に作成した魔法ともいえる。


「あ、熱っ! カケル兄様、もう少しだけ温度を下げて頂けますか?」

「ああっ、すまない。しかし、火属性と風属性の重ね掛けは難しいな。重ね掛けするだけでどんどん温度が高くなっていってしまう」


 とはいえ、まだまだ魔法を使いこなしてはいない様だ。


「何事も経験ですよ。経験値を積めばカケル兄様の『温風』の魔法も程よい温度で使える様になります。なのでボクを実験台に頑張りましょう。ああ、でも火力を上げ過ぎてボクの頭を焼かない様に気を付けて下さいね」


 流石の俺も頭を燃やされるのは御免である。


「ああ、わかっているよ。それにしてもカナデと話しているとなんだか調子が狂うな……。なんだか、年上と話している様な気分になってくる」


 確かに……。

 敬語で喋る五歳児なんて中々いないだろう。


「そんな事ありませんよ。父様も母様もいつも言っているではありませんか。言葉遣いは心遣いですよ」

「うっ! ま、まあそうなんだけどさ……」

「でも僕はカケル兄様の言葉遣いは好きですよ」

「そ、そうか?」


 俺の言葉にカケル兄様が照れている。

 それと共に『温風』の温度もドンドン上昇してきた。


「カ、カケル兄様。『温風』の温度がどんどん上昇しています。で、できれば、集中して頂けるとありがたいと言いますか……」

「あ、ああっ! すまない」


 カケル兄様が俺の髪を撫で、水気が飛んでいる事を確認すると、今度は俺の前に座ってきた。


「じゃあ、今度は俺の番だな。カナデの『温風』の腕、見せて貰おうじゃないか」


 指を櫛代わりにカケル兄様の髪に『温風』の魔法を掛けていく。

 ちなみに俺も全属性の魔法を使う事ができる。

 何せ三歳の頃から魔法の練習をしているのだ。

 カケル兄様には悪いが、魔力操作の腕はカケル兄様より上だと自負している。

 何ならこんな事もできる。


 俺は魔力で手を形取ると、カケル兄様の頭をコリをほぐす様に指圧をかけていく。


「あ~。流石は我が弟『温風』の魔法を使いながら頭のコリをほぐすなんて、もはやお主に教える事はない『温風』の免許皆伝じゃ~」

「ありがとうございます。カケル兄様」


 ふっ、ついに免許皆伝か……。

 この魔力で手を形取った『見えざる手』は俺のオリジナル魔法だ。

 初めて魔法を使った時には使う事ができなかった魔法も今となってはお手の物である。

 何なら、この『見えざる手』アップルナップルの皮剥きから、掃除の手伝い。はたまた戦闘訓練にも利用する事ができる。


「それにしても、カナデの『見えざる手』はどうやって操作しているんだ? 俺も魔力を固める所までは上手くいくんだけど、操作の仕方がよく分からないんだよな~」

「魔力操作の応用ですよカケル兄様は感覚派だからすぐに魔力を操作する感覚を掴む事ができる様になりますよ」

「魔力操作か~。俺、苦手なんだよなぁ~」


 カケル兄様は魔力操作が不得意だ。

 しかし新しい魔法を創り出す才能に溢れている。

 これから魔力操作の練習をして、魔力を自在に操れる様になれば、さぞかし凄い魔術師になる事ができるだろう。


「魔力操作が苦手であれば、ユズキ姉様に教えて頂いてはいかがでしょうか? ユズキ姉様もカケル兄様と魔力操作の練習がしたいと言っていましたし、ボクより教えるのが上手ですから」

「そうだな。ユズキに教えて貰うとするか~。それじゃあ、早速、ユズキの下に行ってくるよ! 髪乾かしてくれてありがとな!」

「いえいえ、こちらこそありがとうございました」


 カケル兄様は俺に向かって力いっぱい手を振ると、そのままユズキ姉様の下へ駆けていった。


「さて、カケル兄様はユズキ姉様の下に送り込んだ」


 俺は父様と母様から与えられた自室に籠ると、笑みを浮かべながら父様からお借りした魔導書を数ページ捲っていく。

 この魔導書は父様が国から叙爵された際に頂いた大事な物だ。

 本来、魔導書は俺の様な五歳児に預けていい様なものではない。

 しかし、俺は父様と母様に甘え、泣き、媚びへつらい土下座するという大凡、普通の五歳児がしない様な事をした事により、なんとか魔導書を貸して貰う事に成功した。


 この魔導書を読む際は自室で読む事や、火気厳禁、飲み物を魔導書の置いてある部屋に持ち込まない事を条件にされてしまったが、その位であればなんて事はない。


 ようやくだ。今日ようやく俺にも友達ができる。


 俺は魔導書を更に数ページ捲ると、召喚の魔法陣が描かれたページに辿り着く。

 そうこの本には、様々な魔法の術式が描かれているのである。しかも、分かりやすい日本語仕様。


 なぜこんなにも素晴らしい書物が日本語仕様なのかは分からないが、これもきっと、俺をこの世界に転生させてくれた神、ミソギハライ様のお導きだろう。


 前世では、信心深くなかった俺も、これには思わず祈りを捧げてしまった程だ。


 さあ、早速、召喚の魔法陣を試してみよう。

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