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第7話 五歳①

 あれからまた二年の月日が流れた。

 三歳児だった俺も今では立派な五歳児。


 風邪を引いたあの日以来、執事のセバスチャンが目を光らせてくれているお蔭で、快適なバスタイムを送る事ができている。メイド達はなぜか、悲痛な視線を向けてくるけど……。


「ふぅ~」


 頭にタオルを乗せ湯船に浸かっていると、俺を呼ぶ声が聞こえてきた。


「カナデ~。カナデ! 風呂に入るなら俺を誘ってくれてもいいじゃないか!」

「カケル兄様。湯船に浸かる前に身体を洗って下さい。そのまま、湯船に浸かるのはダメですからね」


 俺がそう言うと、カケル兄様はプクリと頬を膨らませる。


「わ、わかってるって!」


 そう言いながら頭と身体を洗っているのはカケル・セイリュウ、年齢は八歳。

 セイリュウ家の長男でこの家を継ぐ俺の兄様だ。


「そういえばカナデは最近、魔法の練習を始めたんだってな、今度俺が魔法の深淵ってやつを教えてやるよ!」


 カケル兄様が頭を洗いながら俺にそう言ってくる。

 俺が五歳の誕生日を迎えた日。その日から父様と母様による本格的な魔法の練習が始まった。まあ、魔法の存在を知った頃から功夫は積んではいるんだけど、その事は父様と母様、兄様や姉様には内緒にしている。


 魔法の練習はこの上なく順調に進んでいるけど、『深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいている』というニーチェ先生の言葉もある。

 ここは慢心せず、カケル兄様に教えを乞うことにしよう。


「兄様が魔法を教えて下さるのですか⁉ ぜひお願いします!」

「ああ、任せておけ! 何せ俺は、カナデの兄様だからなっ!」


 ハニカミながら言うそのセリフは、父様のキラースマイルを彷彿とさせる。

 多分、兄様も数年後には父様と同じように、数多の女性を突発性の狭心病と失神に追い込むイケメンへと育っていくのだろう。


「しかし、カケル兄様。ユズキ姉様とのお約束は大丈夫なのですか?」


 カケル兄様はユズキ姉様にも俺と同様のことを言っている。

 カケル兄様に俺とユズキ姉様の二人に魔法を教える甲斐性があるとは思えない。


「うっ! そ、それは……」


 俺がそう言うと、カケル兄様はしどろもどろし出した。

 どうやら自信はないらしい。


 弟と妹の手前、カッコいい事を言ってのけるが、魔法を教えるには手が足りない。

 確かに、カケル兄様の持つ固有スキルには目を見張るものがある。

 ユズキ姉様にして見てもそれは同じだ。


 俺は、身体を洗うカケル兄様に向かって笑顔を向けると、「まずはユズキ姉様の事を第一に考えてあげて下さい」と呟いた。


 ちなみにユズキ姉様はその敬称通り俺の姉、ユズキ・セイリュウ。年齢は七歳。


 ユズキ姉様と転生者である俺とでは随分と知識の差がある。

 カケル兄様が俺に時間を割いてくれるのはとても嬉しいが、ユズキ姉様にその時間を割いて貰った方が効率的だ。


 俺がそういうと同時に、身体を洗い終えたカケル兄様が湯船に浸かりながらため息を吐いた。


「カナデは兄様である俺にもっと頼ってもいいのだぞ?」

「カケル兄様。湯船にタオルを浸けてはいけませんよ」


 そう呟くカケル兄様に俺がそう言うと、カケル兄様は顔を赤らめてタオルを絞り頭の上に乗せた。


「カナデはなんでそんなに落ち着いた性格をしているのだ⁉︎  もうちょっと俺を頼ってもいいんだぞっ!」


 別に俺もカケル兄様に魔法を教えて貰って悪い気はしない。むしろ、気にかけて貰って感謝している位だ。


 俺はそんなカケル兄様に微笑むと、「それでは」と細やかなお願い事をしてみることにした。


「カケル兄様。僕の頭を洗ってくれませんか? そういえばまだ身体を洗っただけで、頭を洗うのを忘れていました。カケル兄様に頭を洗って頂けると嬉しいのですが……」


 俺がチラリと視線を向けると、カケル兄様は笑顔を浮かべながらこちらに近づいてきた。


「し、仕方がないなぁ、カナデは……。ほら、泡が目に入るだろ? 洗い流すまで目を瞑っていろよ」


 カケル兄様はツンデレのようだ。全く素直じゃない。


 カケル兄様に頭を洗って貰い、髪についた泡をお湯で洗い流すと、俺はカケル兄様にお礼を言った。


「カケル兄様、ありがとうございます」

「ああ、いつでもいえよ。なにせ俺はカナデとユズキの兄様だからな! そうだ、今度、ユズキの髪も洗ってやろう!」


 するとカケル兄様がそんなことを言い出した。


「ダメですよ。カケル兄様。只でさえ、メイド達がボク達に向けて悲痛な視線を向けてくるのです。メイドから仕事を奪ってはなりません」

「うん? そうか⁇」

「はい。そうです」


 流石のユズキ姉様といえど、異性であるカケル兄様に頭を洗われるのは多分、嫌がるはずだ。俺はユズキ姉様に嫌がられるカケル兄様の姿なんて見たくない。


「そういえば、カケル兄様は先日、教会で洗礼を受けたんですよね? 教会ではどんな事をするんですか?」

「ん? 確か司教様からお言葉を賜り、それを受け入れ手に聖水をかけて貰うんだったかな? その後、固有スキルを賜わり、司教様から魔法適性を教えて貰うんだ」

「そういえば、カケル兄様の魔法適性は雷属性でしたね」

「ああ、父様から専用の杖も賜った。カナデも八歳になれば適性が分かるようになるさ」

「はい。ボクも司教様から固有スキルを賜わり、魔法適性を教えて頂けるのを楽しみにしています」


 その後、俺はカケル兄様と他愛のない話をすると風呂場を後にした。

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