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第6話 風邪を引きました

 父様によって、気温の低いお空に連れて行って貰った後、メイドによって身体を洗わられ、セバスチャンが様子を見に来るまでの間、放置された結果、俺は見事に風邪を引いた。

 正直、小学校や中学校で風邪を引いた際には、ラッキーと思っていた風邪も異世界では勝手が違う。


「ううっ……父様、母様……先立つ無礼をお許し下さい」

「カナデはまだ三歳児なのに、なぜそんな難しい言い回しを……いや、そんな場合じゃない。カナデ、大丈夫か⁉︎」


 身体が震えて頭が痛い。意識も朦朧として父様と母様がモザイク状に見える。

 俺はここで死ぬんだ……。

 セイリュウ家のカナデとして生まれて早三年。

 まさか、風邪で死を覚悟する事になるとは思いもしなかった。

 異世界の風邪恐るべし……。


「大丈夫よ! カナデちゃん! あなたは死なないわ、私が守るもの!」


 どこかで聞いた様な言葉を母様が呟いた。

 もしかして母様、実は俺と同じ世界から来た転移者じゃないだろうか?

 いや、流石にそんな事はないか……。


 朦朧としながらもそんな事を考えていると、喉から何かが迫上がって来るかの様な、猛烈な吐き気を感じる。


「ウオボロロロロ……」


 風邪菌め! 異世界でも大活躍だ!

 この時ばかりは薬や抗生物質を打つという発想のない異世界が恨めしい。


 俺は母様介抱の元、胃をスッキリさせるとパタリと横になる。


「カナデ、カナデッ!」

「カナデちゃん? カナデちゃん!」


 母様。父様。そんなに泣かないで、俺は母様に産んで貰ってとても幸せな日々を過ごす事ができたよ?

 それに母様や父様の温かみ……。本当に幸せでした……。


「カナデ! おい、カナデ! 嘘だろッ!」


 今の俺は三歳児。体力の限界が訪れた俺はゆっくり目を閉じると心配する父様と母様の心配を余所に深い眠りについた。

 翌朝目が覚めると、意外や意外、身体の調子がスッキリしている。

 両隣には父様と母様がスースー寝息を立てているのが見える。


 どうやら付きっきりで看病してくれていたらしい。

 優しい父様と母様の元に生まれて来て本当に良かった。


 俺は父様と母様の手を軽く握ると、眠気に負け二度寝する事にした。


「カナデ、熱は下がったか?」


 俺が目覚めると父様が額で俺の体温を測っていた。

 父様は生まれつき体温を測る体温計の様な機能でも持ているのだろうか?

 母様がそんな俺達の姿を微笑ましく見ている。


「まだ体温が高い……。カナデはしばらく安静にしていなさい」

「はい。わかりました父様」


 俺はそう呟くと、母様が笑顔を浮かべ頭をポンポンと撫でる。


「今日のご飯は野菜スープにしましょうね。カナデちゃん、また後でね。安静にしているのよ」

「はい。わかりました母様」


 俺は笑顔で父様と母様が部屋から出ていくのを見送ると、掛け布団を被った。


 昨日はあまりの風邪の苦しさから、父様と母様を心配させる様な事を言ってしまった気がする。


「ああ、穴があったら入りたい……」


 いや、穴に入ったからといって、昨日の事を無かったことにはできないんだけど……。


 俺がジタバタ悶えていると、また頭がボーっとしてきた。ジタバタし過ぎてまた体温が上がってきた様だ。


 回復魔法で風邪は治らない。

 驚愕の事実である。


 どうやらこの世界では、魔法が発達した世界である為か、医学はそこまで進んでいる訳ではないらしい。

 まあ万能薬というファンタジー要素満載の薬を使えばもっと簡単に治す事もできたらしいが、万能薬のお値段はとても高い。


 体力を回復し、傷を癒すポーションもあるみたいだけど、服用年齢制限という謎の制限により、ポーションで体力を回復させながら風邪に立ち向かうという事ができなかった。


 ちなみにポーションの服用年齢制限は五歳児から解かれるらしい。

 つまり、俺はこれから五歳になるまでの間、風邪を引くたびにあの様な醜態を晒す事になるのだ。


 考えただけで頭が痛い。

 いや、頭が痛いのは風邪を引いているからだけど……。


 こういう時は眠るのが一番だ。

 俺が一歳児だったなら余りの頭の痛さにギャン泣きしていただろうけど、三歳児だったから耐える事ができただけだ。


「坊っちゃま。体調はいかがですか?」


 俺が目を閉じお布団の中に包まっていると、執事のセバスチャンが様子を見にきてくれた。

 片手には、水の入ったポットと林檎の様な見た目なのにパイナップルの様な味のする不思議な果物、アップルナップルをまるでうさぎさんの様な形にカットして持ってきてくれた。


 俺は布団から顔を出すと、セバスチャンに向ける。


「セバスチャン……」


 弱々しくそう呟くと、セバスチャンは悲痛に満ちた表情を浮かべる。


「ああ、カナデ様。此度の件、発見が遅れてしまい申し訳ございません」

「大丈夫だよ。セバスチャンのお陰で助かったし……。そういえば、メイドさん達はどうしているの?」


 泡だらけの俺を放置して口論していたメイドさん達だけど、風邪を引いた位で罰を与えられては可哀相だ。


 セバスチャンは、水の入ったポットとアップルナップルをテーブルに置くと、頭を軽く撫でながら話し始めた。


「彼女達は、坊ちゃまを泡だらけにして放置した罰として、一ヶ月からの坊ちゃまとの接見禁止を命じました。彼女達にはそれが一番堪える様ですので……」


「そうなんだ……」


 何だか複雑な気持ちになった。

 俺との接見禁止が一番の罰となるなんて……。

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