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第5話 母様の怒り

 父様に連れられ、青龍との空の旅を楽しんだ俺が、家に帰ると外に笑顔を浮かべた母様が待っていた。

 側には老齢の執事セバスチャンまでいる。


「ふふふっ、カナデはこっちにいらっしゃい」


 母様の言葉に背筋が凍るような恐ろしい何かを感じる。

 まるでこれから天変地異でも起こるかのような、そんなプレッシャーを……。


 異変を察知した俺は、青龍から飛び降りると、俺は母様に跳び付いた。


「母様……。父様を虐めないで……」


 母様は俺の言った言葉にしどろもどろになっている。

 俺としては、父様に青龍に乗せて貰った事を危ない事だとは思っていない。


 むしろ、いい経験になったとすら思っている程だ。

 眷属たる青龍に乗せて貰う事など、父様を除く誰にできるだろうか?


 しかし、母様の考えは違うらしい。


「ふふふっ、カナデちゃんはパパが私に虐められるんじゃないかって気にしているのね? 大丈夫よ。カナデちゃんのお陰で、私の怒りは少しだけ和らいだわ。ただ、パパとはすこーし話し合わなければならない事があるの。カナデもわかってくれるわよね?」


 俺の頭を撫でながらそう言うと、俺をセバスチャンに預け、ゆっくりとした足取りで父様に向かって行く。


「セバスチャン。あなたは湯浴みの準備を……。カナデを連れて部屋に戻っていなさい」

「畏まりました」


 セバスチャンは頷くと俺に話しかけてくる。


「さあ、坊っちゃま。奥様は旦那様と大事な話しがあります。空の旅は楽しかったですか?」

「うん。とっても楽しかったよ!」


 俺が満面の笑みを浮かべて言うと、セバスチャンはニコリと笑う。


「それはようございました。空は寒かったでしょう。今すぐに湯浴みの準備を致します。湯舟に浸かって冷えた身体を温めましょう」


 確かに、空は寒かった。

 俺はセバスチャンに「うん!」と元気よく返事をすると、チラリと母様に視線を向ける。


 すると、そこには静かな怒りを父様に向ける母様の姿があった。


「あなた……。何故、私が怒っているのか、分かるわよね?」

「はっ、はい!」


 母様の言葉にセイリュウ家の当主、ツバサ・セイリュウは、背筋を伸ばしながら冷や汗を流している。


 いくらセイリュウ家の当主といえど、母様には弱い様だ。

 俺が父様に助け舟を出そうにも、セバスチャンが「さあ、参りましょう坊っちゃま」と、手を繋ぎ言ってくるので、何もする事ができない。


 父様。頑張って……。

 母様。父様をそんなに怒らないであげて……。


 俺は心の中でそう叫ぶと、セバスチャンに連れられお風呂へと向かった。


 正直言って俺はお風呂があまり好きではない。……と言うのもちゃんと理由がある


「はい。坊ちゃま。服をヌギヌギしましょうね~」


 俺が手を挙げ万歳の姿勢を取ると、セバスチャンが服を剥ぎ取っていく。

 そして、ズボンも剥ぎ取られると、俺に残されたものは何もない。

 スッポンポンだ。


 そして、その姿のまま、服を着たセバスチャンに連れられ浴槽まで行くと、今度は数名のメイドが現れる。


「それでは坊ちゃま、身体をちゃんと温めるのですよ」


 セバスチャンはそう言うと手を放し、メイドへと俺を預けた。


『セ、セバスチャーン!』と俺が心の中で叫び声を上げるも、当然、セバスチャンには届かない。

 メイドの一人がニコリと口元を歪めると、俺を取り囲み、片手にそれぞれ俺の身体を洗う為の道具を手にする。


 そう、俺が風呂を嫌う理由。

 それは、セイリュウ家に使えるメイドによる強制的なバスタイムにあった。


 メイド達は洗われるのを嫌がる俺の腕を優しく掴むと、獲物を見つけたマントヒヒの様に、スッポンポンとなった俺を取り囲んでいく。

 そして、俺が逃げる隙を無くすと、泡だらけとなったタオルで俺の身体を優しく磨いていく。


 心なしか、メイド達の俺を見る目が、腹を空かしたハイエナの様に見える。

 一体何故彼女達はこんな狂気に満ちた視線を俺に向けてくるのだろうか……。


 嫌がる俺の身体をメイド達は優しく笑顔で磨き上げていく。


「も、もうヤめて! もう大丈夫だから! 身体綺麗になったからぁー!」

「いえ、まだまだです坊ちゃま。暴れないで下さい」

「も、もういいからー!」


 俺が身悶えているというのに、メイド達は笑顔を浮かべている。

 父様も母様も、兄様も姉様もなんでこの苦行に耐える事ができるのだろうか。

 俺としては擽ったくてしょうがない。


 メイド達に散々、弄ばれた(全身を隈なく洗われた)俺は、シクシクと泣きながら呟いた。


「ううっ、もうお婿に行けない……」


 するとメイド達は更なる喰いつきを見せる。


「大丈夫です坊ちゃま! 私が、私こそが坊ちゃまに相応しきメイド!」

「何を言っているのよ! 坊ちゃま。私は坊ちゃまの事を愛しております。坊ちゃまの嫁にはぜひ私を……」

「いいえ、馬鹿な事を言っているのではありません。坊ちゃまは気が動転しているだけです。坊ちゃま、私の娘が坊ちゃまと同世代にございます。ぜひ、私の娘を坊ちゃまの嫁に……」


 すると、俺をほっぽり出してメイド達が争い始めた。


「坊ちゃまは私が貰うのよ!」

「何を言っているのクソ婆ァ! 私の愛の方があなたより上よ!」

「うっせぇショタコンがっ! 坊ちゃまは私の娘こそ相応しい! ねー坊ちゃま? そう思いますよね?」

「厚かましいのよクソ婆ァ! 坊ちゃま……。私、あなたの事が……」


 メイド達が毎度の騒ぎを起こす中、ピシャリとドアを開け、セバスチャンが浴室に入ってきた。


「カナデ様、気分はいかがでしょうか……」


 すると、そこまで言ってセバスチャンは言葉を止める。

 今の俺は浴槽に浸かる所か、泡だらけになったまま放置されている三歳児だ。


 ドアを開ける前までは笑顔だったセバスチャンの顔も段々と雲行きが怪しくなってきた。

 セバスチャンはどこからともなく取り出した鞭を手にすると、風呂場の床にピシャリと打ち据える。


「あなた方は……。カナデ様を放置して何をしているのですか……?」


 セバスチャンの言葉にメイド達は背筋をピンと伸ばす。


「い、いえ、違うのです。私達はカナデ様の身体を丹念に洗っていただけで……」

「そ、そうですわ。カナデ様は確かに美形で将来が楽しみなお顔立ちをしておられますが、私達はカナデ様の身体を丹念に洗っていただけでございます」

「わ、私も同じです」


 既に同様の事で何度も怒られているというのに、セバスチャンに言い訳をするとは、なんて愚かな選択を……。


 俺が泡だらけの身体のまま、チラリとセバスチャンに視線を向けると、セバスチャンはメイド達に向かって二コリと微笑み。背景に怒気に塗れた鬼神の姿を浮かばせた。


「私に言い訳をするとはいい度胸ですね……」


 泡だらけのまま放置された俺がクシャミをすると同時に、メイド達にセバスチャンの雷が落ちた。

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