第2話 不幸なのは画数が悪いせいだったorz
俺は絶賛混乱中である。
先ほどまで、神社で厄払いの祈祷を受けていたはずなのに、何故か、まるで雲の上のような空間に鎮座している。
辺りを見回していると、空が強く光り、上から綺麗な女性が降りてきた。
「あら~随分と綺麗な顔をした子が来たわね。私は、罪や穢れ、災厄を取り払う神、ミソギハライ、あなたの名前は何というのかしら?」
「俺の名前は清流奏です。ミソギハライ様? ここはどこでしょうか? 先ほどまで神社で祈祷を受けていたと思うのですが……。」
ミソギハライは奏での、頭にそっと手を乗せると、目を瞑り、呪文を紡ぐ。
「これでよし……。ええ、確かにあなたは先ほどまで、神社で祈祷を受けていたわ。でもね、あんな祈祷に意味はないの。祈祷は、祈祷師が私たち神に祈り、祈祷を受けた者の願いを神に届けるものよ。本来、私のような神が降り立つほどのこと柄ではないの……。でも、あなたは別。」
「どういうことでしょうか?」
ミソギハライは、ボードのようなものを出現させると、『清流奏』とボードに書き込んでいく。
「あなたの名前はね、画数が最悪なのよ。」
まさかの事実発覚である。
「『清流』これは天格が21と大吉よ? でもね『流奏』の人格が19と大凶、地格も9で大凶よ? 総格30で凶といったところかしら、ああ凶で良かったなんで思わないでね? 外格は12と最悪の大凶だから……。まあ何がいいたいかと言えば、名前の画数が最悪だから、才色兼備すべてが揃っているあなたでも不幸だったという訳ね。あなたの名前を『成龍奏』に変えることで総格が31の大大吉となり、天運、才能、大成功、財産といった姓名判断における最大吉数のひとつで、誰にでも好かれて、仕事も出来て、人気もある全てにおいて最高の結果を得ることができるわ。」
希望が出てきた。つまり苗字を変えれば最高の人生が待っている。そういうことか!
「ああ、とはいっても天格は凶のままだから、孤独、離別、不信といった災厄をもたらす場合があるわ。これはもう、私にはどうにもできない問題ね。」
「わかった! すぐにほかの姓を得ろと、そういう訳だな! ありがとう!」
奏が、どこに向かって走り出しそうになるのを止めると、ミソギハライは奏での耳元で囁く。
「あのね、もう元の世界には戻れないのよ。無理矢理戻ることも可能だけど、そうすると、あなたの姓名が滅茶苦茶になり更なる不幸を呼び込むことになるわ。」
奏は茫然とした表情をミソギハライに向ける。
「じ、じゃあ、どうすればいいんですかっ!」
ミソギハライは笑みを浮かべると、奏での頭に手を乗せ、良い子良い子と撫でまわす。
「解決策を聞いてくる子は嫌いじゃないわ。そうね……。『成龍奏』の名前のまま、異世界にGotoするというのはどうかしら? もちろん、無理にとは言わないけど……。」
未練? そんなものあるはずがない。
父や母は俺が小さい頃、親戚に俺を預け金だけおいて突然いなくなった。
きっと愛想を尽かしたんだろう。
それでも懸命に強く生きようとするも、学校ではみんなに嫌われている。当然、友達も彼女もいない。
このまま、あの世界で生きていても、この不幸のループから逃れることができない気がする。
だったら、心機一転、新しい世界で人生をやり直した方がいいかもしれない。
「わかりました。俺、異世界に行きます!」
「ふふっ、それじゃあ『成龍奏』くん。行ってらっしゃい。そして、次こそは幸せな人生を掴むのよ。」
ミソギミライがそう呟くと、俺の視界が真っ白に塗りつぶされた。
☆
「ふう。それにしても……。この私でも抗うことができないほどの【魅力】。そしてこの世界には存在しないはずの【魔力】。なぜ、あの子にそんな力が……。ご丁寧に【嫉妬の寵愛】まで与えられて……まあ、【嫉妬の寵愛】は取り除くことができたけど……。」
ミソギハライは、成龍奏が転生した世界に目を向ける。
「成龍奏くん。君の人生に幸あらんことを……。」
☆
成龍奏が目を開くと、天井が目に飛び込んでくる。
知らない天井だ……。あれ? 声が出ない??
現状を把握するため、首を動かそうにも、うまく首が動かない。
身体もあまりよく動かせない……。
そんな事を考えていると、瞼がどんどん重くなる。
急に眠たくなってきた。
奏が次に目を覚ました時は、知らない女性の腕の中だった。
明らかに日本人ではない。肌は白く、髪は金色、目は蒼く美しい女性。
知らない女性の腕の中、しかし、不思議と落ち着き心癒される。
とはいえ、流石に何かを掴んでいないと不安である。
手をゆっくり動かし、女性の腕をそっと握ったところで直感する。
まさか俺は異世界に転移したのではなく、転生してしまったのではないだろうか。
ミソギミライは『異世界にGotoする』と言っていたので、てっきり、そのままの姿でGotoするかと思っていたが、どうやら違ったらしい。
また人生を一からやり直すことになるとは……。
いや、人生をやり直したいと思ったからこそ、ミソギミライの提案を受け入れたんだけど、これはあんまりじゃないだろうか。
なにせ、赤ちゃんという、声も出ず、身体を自由に動かすことのできないボディに記憶を持ったまま生まれ変わってしまったのだ。
赤ちゃんの食事、授乳にオムツ替え、そんな恥辱プレイを俺は一身に受けなければならない……。不幸である。
「ウゥ、アウ、アウァァァァァァッ!」
言葉も上手く紡ぐことができない今、俺は泣き叫ぶことしかできなかった。