第1話 これが不幸と言わずしてなんという!
俺は不幸だ。
いや、俺の名前が不幸という訳ではない。
その時々の気分の問題だ。
よく『幸せは積み重ねるもの』とか言っている人がいるが本当にそうだろうか?
幸せは足し算でも掛け算でも、ましてや引き算でもない。
その時々の気分だ。
例えば、『朝早く目覚めて学校に行かなければならない。』
不幸だ。
少なくとも、行かなければならないと思っている時点で幸せではないだろう。
『学校でテストがある。』鬱だ。
そう鬱だ。テストで測られるそんな環境にいる時点で幸せではない。
『宝くじが当たった!』
幸せと見せかけて不幸だ。
当たりを引くまでにいくら投資したか考えてみてほしい。
ビギナーズラックで、1等を引き当てた方はおめでとう。いまその瞬間はまちがいなく幸運だ。
その後、知らない親戚や友達、寄付をお願いしてくる宗教団体により、不幸と感じたり、人間不審に陥るかも知れないが強く生きてほしい。
このように、この世は不幸に満ち溢れている。
自分で言うのもなんだが、俺は文武両道、成績優秀、高身長、それでいて容姿端麗ときている。その点は幸運だ。
しかし、現実はそんなに甘くない。
俺は皆と仲良くなりたい。しかし、どうやら俺は、皆に嫌われてしまっているらしい。
俺が話しかけると、生徒たちは『キャー!』と悲鳴を上げて逃げていき、視線を向けると逸らされる。
体育で2人組を組めば、俺の嫌いさ故か相手には失神され、水泳の授業では、クラスの女子全員の嘆願により、俺だけプールに入ることができず代わりに補習を受ける羽目になる。
あげくの果てに、『俺(私)の女(男)をお前に取られた』と覚えのない冤罪を被せられ、殴りかかられる始末……。
殴られる訳にはいかないと、その男(女)の拳を避け、正当防衛で撃退するも、教育指導の先生に呼ばれ、怒られる。
はっきり言ってどうしようもない。
他にもまだある。
定期的に無くなる上履き、進級するたび剥ぎ取られる学生服のボタン、先端だけ取り換えられるリコーダー、すれ違い様抜かれる俺の髪……。
これは苛めではないだろうか……俺を金銭的・肉体的に追い詰めてどうしようというのだろう。不幸である。
極めつけは、誕生日やバレンタインデーに届く、髪の毛や爪入りのケーキに、割れたハート形のチョコレート、そして机に刻まれる俺と知らない名前の相合傘に謎のメッセージカード……。
丁寧なラッピングに、一瞬喜んでしまったが、よくよく考えてほしい。
俺に気のある奴が、俺の机に相合傘を刻むだろうか?
俺の机に刻まれた相合傘の中には、どう考えても男としか思えない名前まで刻まれている。
さらに謎なのがメッセージカードだ。
どう考えても複数回開けられた形跡があり、メッセージカードを見てみると、いくつか黒く塗りつぶされた部分がある。最後の文章は決まって、『私はあなたのことが嫌いです。 ○○××』で終わっている。
とても高度な嫌がらせだ。不幸である。
そんなこんなで今俺は、不幸を祓うため、お祓いをしてもらいに神社に来ている。
ヨボヨボの神主さんは目を合わせてくれるが、たまに違うところを見ていることを鑑みるに、目が悪く俺の顔や姿をあまり認識していないんだろう。本当に大丈夫だろうか。
そして、巫女さんの服を着た女性は、俺の姿を意地でも見まいと、顔を背けている。
たまに視線が合ってしまうが、視線が合うと凄い勢いで首を振り、視線を逸らされてしまう。
うん。初対面の人にまで安定して嫌われている。
不幸……いや、鬱だ。こんな綺麗な巫女さんにまで顔を逸らされてしまうなんて……。
そして、何故かは知らないが、俺の横にいる巫女さん(推定50歳)は、俺の尻を絶賛撫でまわし中だ。
不幸だ。鬱だ。死のう。というか、ヨボヨボの口パク神主さんコレを今すぐ止めてくれッ!
しかし今はお祓い中、神主さんが目を瞑りながら、後ろにチラッと見える音響設備に合わせ口パクで俺の頭に、榊をペシペシ当ててくる。
これ、怒ってもいいんじゃないだろうか?
俺はこのお祓いにこれからの人生をBETしている。
なんなら今俺に与えられているお小遣いも全額BETしている。
しかし、ここで怒り、お祓いを中断してしまってはすべてが無駄になってしまう。
俺は目を瞑り耐え忍ぶことにした。
心頭滅却すれば火もまた涼し。無念無想の境地にあれば、口パクで祈祷を行う神主さんや、俺の尻を撫でまわす巫女さんも何も気にならない。
頑張れ奏頑張れ! 俺は今までよくやってきた! 俺はできる奴だ!!
今だ、今だけ我慢するんだ。
しばらくすると、祈祷の声(電子音)が聞こえなくなる。
どうやら祈祷が終わったようだ。無事、厄払いすることができただろうか。
俺がゆっくりと目を開けると、そこは神社ではない、知らない空間に変っていた。