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「ねぇブリュ。女神なんて辞めちゃおう。」
「力があっても直接何かできる訳じゃないし気持ちは全然晴れないよ。」
「それに、女神を辞めた方が人間には大ダメージなんだよね。」
「……どういう事?」
光とありさによるネガティブキャンペーンはブリュの興味を上手く引いた。
二人は息のあった掛け合いで更にプレゼンしていく。
「だって自分達のせいで女神様がいなくなるなんて不名誉な事、人間にとっては明日世界が滅ぶくらいのお話だよ。」
「責任を擦り付け合って争いも起こっちゃうかもね。」
「きっと居なくなった女神様に許しを乞う人もたくさんいるんじゃないかな。」
「悲しい気持ちを引きずったまま生きる辛さはブリュが一番知ってるでしょ。」
ブリュは何も言わず暗い顔で視線を落とした。
光とありさは自分の言葉が心に刺ささるが揺らがないように、ブリュにそれが伝わらないように必死で平静を装う。
一人では心が折れていたかもしれない。しかしお互いの存在が支えになり頑張る事ができる。
「ブリュが女神様じゃなくなったら私達の世界で一緒に暮らそうよ。」
「人間は嫌いかもしれないけどコッチにいるよりはマシでしょ。」
「それとも私達といるのは嫌?」
光とありさの心臓は緊張でドキドキと鳴りブリュに伝わってもおかしくない程だった。
拒絶される可能性は充分にある。しかし別の選択肢は二人の頭に浮かんではいない。また初めから考え無ければならない上に犠牲者が増える可能性もある。
このままあっさり受け入れて欲しいと光とありさの気持ちは一つだった。
「二人の事は好きよ。だけど異世界に行く事とここに残る事、何が違うのかしら。同じ人間がいる場所なのに……。」
「だったら、ここで私達と暮らそう。外の情報は一切遮断して私達だけで暮らしてみよう。」
「私もブリュが良いなら店長の意見に賛成だよ。」
「……どうして。自分の世界に帰りたいんじゃないの?人間を伝道師を傷つける私が憎くないの?二人と過ごしていたのはブリュレであって私では無いのに何故?」
ブリュは二人の腕の中から離れると捲し立てる。
人間なんて信じられない、苦しませて分からせてやらなければならない。なのにブリュの心には確かに光とありさを信じたいという気持ちがある。
「ブリュでもブリュレでも関係ないよ。助けたい、ただそれだけだよ。」
「こんなに苦しんでる人を放っておくなんてできる訳ないし。このまま元の世界に帰るなんて選択肢はないっ!」
「ブリュが人間を傷つけるのは悲しい。人間にブリュが傷つけられていたのも悲しい。その悲しい気持ちが続くのはすごく苦しいから…私達に貴女の幸せを手伝わせて。」




