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光とありさは溜息の庭に戻ってきた。
以前は毒々しい花々が唯一の彩りとして広がっていたが、今はただの真っ白な空間だ。
「「ただいま。」」
「お帰りなさい。アーサーが負けちゃうなんて残念。」
「全然残念なんて顔してないし。」
ブリュは椅子に座り足を組んで余裕の表情を見せる。傍らのマリナは鳥籠のような檻に入れられてぐったりしていた。
「マリナ……。」
「ちゃんと生きてるから安心して。」
「そうは見えないけどね…。」
「それより…なんで大切な戦力を置いてきたの?二人共仲間になってくれるのではないのでしょう?」
「ブリュは私達を傷つけないから。」
ありさの言葉はブリュには信じられないものだったので、ブリュは思わず椅子から立ち上がった。
マリナとフローラを傷つけ、アーサーに破壊行為をさせた張本人のブリュそんな事が言える人間がいるなどとブリュの辞書の中には載っていない。
「死にたいならハッキリそう言ってくれればいいのに。」
「違うよ。死にたいんじゃなくてブリュを信じてるんだよ。」
「意味がわからないっ!」
「だって、ブリュがこうげ攻撃したのってフローラとマリナだけでしょ?」
「私達ね、考えたの。なんで自分で世界を壊さなかったんだろうって。やらないんじゃなくて出来ないんだよね?女神だから。」
確信をつく光の言葉はブリュは感心した。
まさか二人がそんなに頭がキレるとは思っていなかったので侮っていたがブリュは認識を改めた。
「よく分かったわね。そう、忌々しい事に私は女神であるが故に…人間を見守る立場故に敵意の無いものを攻撃できない。
愛した者に裏切られた上に神として敬う事もされず、その怒りをぶつける事すらできない……。女神って本当に人間に都合の良い存在よね。」
光もありさもブリュにかける言葉が見つからず沈黙がその場を支配した。
「まあ、早々にブリュレをつくって眠っちゃったし、こうして復讐もしているしアレから女神らしい事なんてしていないのだけれど。」
「もう女神なんて辞めちゃえばいいよ。」
「店長…それが出来たらとっくにやってるんじゃ…。」
光は呆れながらありさに言ったがブリュは違った。
目を見開きまるで狐につままれたような顔をしてフリーズしてしまい、ブリュの様子に気がついた光が近づき目の前で手を振っても反応がない。
数十秒後、ブリュは自分の右頬をバチンと思いっきり平手打ちした。




