70
滝つぼに着くとそこにはアーサーが一人立っていた。
光とありさとフローラは馬から降りると言葉を発すること無くただアーサーを見つめた。
「…ヒカリ、お帰りなさい。きっと帰ってきてくれると信じてたよ。」
「…アーサー。」
「だけど余分な人まで戻って来てしまってガッカリだ。ありさ、君は戻って来なくて良かったのに…また殺されにきたの?」
アーサーからもれる殺気に青ざめる光とありさをフローラは背に庇った。
そしてゆっくりと腰につけていた剣を抜くと刃先をアーサーに向ける。
「フローラ、君じゃ勝てないのはわかっているだろ?」
「ええ、私だけで殿下に勝てるだなんて思っていません。ですが、私は一人ではありませんので!」
アーサーはやれやれという仕草をして剣を抜いた。そして二人同時に地面を蹴り距離を詰めるとそこからは剣先がぶつかる音が鳴り響く。
「腕を上げたね。」
「お褒めに預かり光栄です!」
激しく撃ち合う二人から少し離れた光とありさは頷き合うと光は時計回り、ありさは反時計回りでフローラとアーサーを囲むように走り出す。
その手には小さな紙を持っており、一定の感覚で地面や木に貼り付けていき再び二人が出会い最後の一枚をありさが貼り付けた瞬間、光の柱が立ち上る。
「なんだ?!」
フローラとの撃ち合いに集中していたアーサーが動揺しあたりの様子を伺うが、フローラは容赦なくアーサーに斬り掛かる。
「くっ。」
「余所見なんて余裕ですね。」
「余裕…そうだね。まだ本気じゃないからね!」
アーサーはフローラに向けて手をかざし攻撃魔法を打とうとした。
しかしそれは発動することは無くフローラはその手を容赦なく切り落とす。
「ぐあっ!なぜだ…。」
アーサーは痛みに耐えながら後ろに跳び退きフローラから距離をとった。
切り落とされた左腕を止血しようと魔法を使おうとするが、やはり発動しない。
「……あの柱か…マジックキャンセルの陣。」
「その通りです。正攻法では勝てませんから。…なぜそちら側にいるのですか?操られてなど、いないのでしょう。」
「何故そう思う。」
「どれだけお側にいたと思われるのですか。殿下はご自分の意思で護るべき国を人々を攻撃した。何故ですか!」
「…そうだね。絶望したんだ…この世界の人々に。自分の中に一気に流れ込んできた感情はあまりにも醜く救いの無いものばかりだった。ブリュと一緒さ…。」
アーサーは右手に握っていた剣から手を離すとその場に座り込んだ。
「フローラ、君にしか頼めない。」
アーサーは両目を閉じ無防備な姿を晒した。アーサーの意図を察したフローラはアーサーに剣を振り上げる。
安らかな顔をしたアーサーとは違い、フローラの顔は歪み両目からは涙が流れていた。




