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部屋に戻ると光は爆睡し、起きたのは昼前だった。
アーサーから昼食の誘いがありバタバタと支度を終えた光は許される速度で小走りしアーサーの元に向かう。
「ごめんね。少し遅れちゃった。」
「大丈夫です。そんな事ありませんよ。ヒカリとの食事が楽しみで早く来てしまったんです。」
光は心の中でアーサーの王子スマイルを讃えた。咳払いし着席すると料理が運ばれてくる。
「今朝?は大変だったね。被害は大丈夫?」
「ええ、幸いモノだけしか壊されませんでしたので。兵たちは全員無事です。ありさ様には夜更けにご足労いただいて感謝しかありません。」
「あの後ブリュレに聞いたんだけど他の場所で嫉妬花の採集してからこっちに来たみたいで活動時間内だったみたい。だから嫉妬花も後一株だね。」
「一株…。」
「昨日の事件前に後三株って聞いていたから。」
アーサーは目に見えて狼狽えていた。手に持っていたナイフとフォークを落とし腕でグラスも倒してしまう。
「す、すいません。見苦しいところを見せました。」
「あ、ううん。サラッとこんな話してごめんね。」
気まずい空気の中昼食を終えるとアーサーは執務室に戻る。光は庭を散歩すると言っていたが今はそれに着いていく余裕はなかった。
書類が山のように積まれた机を前にそれ等に手をつけず椅子に身体を預けたアーサーはため息を吐いた。
「後一株…。」
光を元の世界に帰す為のアイテムは概ね揃い、時期も半年以内だろうと計算が出ている。人々と各地の毒の浄化も進み光の手が無くても終息しそうだ。
毒を生成する嫉妬花は後一株。
アーサーは時間の無さをひしひしと感じていた。今のままではほぼ100パーセント光は帰ってしまうだろう。もちろんありさも一緒に。
あんなに懐いているのだから光だけ残る選択肢は無い。
自分は残り少ない時間で光に心を向けて貰える存在になり、ありさをも超えなければいけない。
アーサーには一番の難関がありさを超える事だとわかっていた。これまでの事で嫌という程二人の絆を見せつけられている。
「ありさ様さえいなければ…。」
それは無意識に出た言葉だった。
自分の口から漏れた恐ろしい言葉にアーサーは絶望した。
自分はこんな事を考えてしまう程醜悪だったのかと今まで知らなかった自分の暗い一面は気のせいではない。
一度認識してしまった闇は少しずつその存在を大きくした。




