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「店長が来るまで何も出来ないの?!」
「ブリュレには分かんないわ~。だって聖女とそんな関わらないし~。」
いつ破られるか分からない壁を前に何か嫉妬花を弱らせる方法が無いか考える。
「アーサー、何か思い当たるものはない?」
「その様なものがあれば伝えられていくはずですが…残念ながら…。」
「そうだよね…。」
ただ時間だけが経ちその場の誰もが壁が壊れない事を祈るのみだった。
頼みの綱のありさの姿はまだ見えない。
「あっ…ひ、ヒビが!!」
先に悲鳴をあげたのは壁だった。
少しずつではあるがミシミシと音をたて砂をはき出し、アーサーは崩壊目前の壁に向かっ手をかざす。
ガラガラと音をたてて崩れる壁の奥から蔓が出てくるとアーサーはそれを逃さず水球で覆うと素早く凍らせた。
まるで氷のオブジェのようになった蔓に皆が胸を撫で下ろす。しかし、アーサーだけが苦悶の表情を浮かべその場に膝をついた。
「アーサー!!」
「大丈夫です。少々魔法を使いすぎただけですから。」
「負担をかけてごめんなさい。ありがとう。」
光の肩を借りながらアーサーが立ち上がるとリンゴブリュレが残念だなお知らせをする。
「たぶんコレもそんなにはもたないわね~。」
「そんな……。」
「たかが植物の分際でしつこい…。」
マリナの言葉に光は微かな違和感を覚えた。何かを忘れているようなもどかしい感覚。
「植物って言っても特別な植物よ~。」
「植物…もしかして…。」
光はマリナにアーサーの支えを変わってもらうとマリナの制しも聞かずに走り出した。
「ちょっと待ってて!!」
その一言だけを残した光は自分の部屋に向かって全力疾走する。
部屋に着くと勢い良くドアを開けてベッド脇のサイドテーブルに置かれた【梓の異世界日記】をめくった。
「違う、ここじゃない…コレも違う!」
乱暴にめくられていくページを速読していく光をリンゴブリュレがただただ応援する。その甲斐あってか光は目的のページを探し当てた。
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【梓の異世界日記】
10月15日
畑でやたら派手な色合いの草を見つけた。雑草かは分からないけど、周りの野菜が枯れてるから良くない草なのだろう。
一条家家訓、安易に知らない草を触らない!かぶれちゃう事があるからね。何の草か気になるから少し研究してみようかな!
11月11日
研究して分かった事。この草の周りでは何も育たない。しかも成長すると範囲がひろがっちゃうし虫も近寄らない。
ハーブの一種なのかな?
この草はこの世界の人達は知らなくて名無しの草。学者の一人が触っちゃった時、触った指先が黒くなった。
おバカさんだよね~。まあ治るといいね?
一番不思議なのは私の愛情たっぷり農作業歌を聞かせると萎びる!解せない。一条家の秘伝なのに!!
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「これだ!」
光は日記を持ってまた走り出した。




