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城の地下、牢の中で男はブツブツと恨み言を呟いていた。
もう何日も風呂には入れず、食事もパンとスープという粗末な物しか出されないので頬は痩せ汚らしい。
男はろくに睡眠も取らずに毎日ブツブツと呟いている。自分から華やかな生活を奪い去った女。不当にこのような場所に自分を閉じ込められる事になった原因。
全てを奪われた男に残されていたのは強い強い恨みや妬みのみ。
男は気付かない。少しずつ黒く侵食されていく自分の身体に。傍らに咲く一輪の花に。
夜明け前、まるで砲撃を受けたかのような衝撃が城を揺らした。
「な、なに?!」
ベッドから飛び起きた光は暗い部屋の中でストールを羽織りドアを開けた。
部屋の外で警護している兵が部屋に戻るように促すが、少し遠くに早足で向かってくるマリナが目に入り光は廊下に出る。
「マリナ!一体何があったの?!」
「城の敷地内で巨大な蔓が暴れているようです。お部屋に戻りましょう。」
マリナに背中を押され光は部屋に戻った。今フローラは隣国に赴いているのでマリナは警戒レベルをマックスにして手には剣を持っている。
そんな中でリンゴブリュレは月光浴をしながら鼻ちょうちんをつくってグッスリ眠っていた。
「よくこんな中で寝れるね…。」
光はリンゴブリュレを手に取ると起きるように呼びかけた。
「ん~ひかりん何?睡眠不足はお肌の大敵なのよ~。」
「寝ぼけてないで!今緊急事態なの!!」
「え~?あ~なんか嫉妬花の気配おっきくなぁい~?」
「「え。」」
光とマリナは顔を見合せた。
もしこの騒ぎに嫉妬花が関係するならば一般人には対処出来ない。
「ブリュレ!店長!!店長呼んで!!!」
「ん~?ありさ~?まだ寝てるわよ~?」
「だから起こして来てもらって!ブリュレも起きて!!」
まだ半目状態のリンゴブリュレを握りしめ光とマリナは現場に急いだ。
城の裏側では多くの兵達が巨大な蔓に剣を向けていた。その戦闘にはアーサーの姿もある。
アーサーは蔓を凍らせ剣で砕いていくが蔓は一向に減らない。兵達も少しずつ疲れが見え始めている。
「全員一度離れよ。」
アーサーは兵を引かせると炎で一面を焼いた。蔓延ったいた蔓は一掃されたが、またすぐに地面から生えてくる。
「アーサー!」
後ろから聞こえた愛しい声にアーサーは振り向き近寄った。
「ヒカリ、ここは危険です!直ぐに戻って下さい。」
「待って!ブリュレ!この蔓は嫉妬花?」
「ん~そうね。これは嫉妬花の根ね~。大きく育っちゃって大変~。」
「アーサー、兵の人達に触らないように言って!」
「分かった。」
アーサーは兵に指示を出すと壁を作り蔓と人を分けた。城の壁の三倍は分厚くつくられているので蔓は壁を壊す事が出来ない。
「ありさ様はあとどれ位で?」
「もう少しよ~。」
自分たちではどうしようも無いジレンマにアーサーは拳に力を込めた。




