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光とアーサーの眠れぬ夜の翌朝、マリナがカーテンを開けるとバルコニーに無いはずの階段が出来ており「何これ?!」と驚きの声をあげた。
寝不足で頭がハッキリしていなかった光だったが、その声で頭がハッキリし「しまった」という感情が盛大に出ている顔をフローラに向けてしまった。
「どういう事か……御説明いただけますね?」
笑顔のはずなのに目が笑っていないフローラに恐怖で震え上がった光は昨夜のアーサーの訪れを隠すことは出来なかった。
そして朝から深夜に男性と逢瀬するとは…と長々と説教される羽目になり散々な朝となった光は寝不足だろからとフローラの気遣いでゆっくりベッドで過ごさせてもらう。
「マリナ、その階段は叩き割っておきなさい。」
「イエス、マム!」
「ん?」
「い、いえ、かしこまりましたぁ!」
フローラはマリナを残し部屋を出て行った。
(コンコンコン)
響いたノック音にアーサーは返事をするのを躊躇った。誰がなんの為に来たのか分かっていたからだ。
「フローラです。執務でお忙しい中恐れ入ります。少々、お時間をいただきたいのですが。」
「……どうぞ…」
渋々返事をして暗い表情で迎えたアーサーにフローラは完璧な笑顔で朝の挨拶をした。
「私が来た理由にお心当たりが有るかとは思いますが…」
「……深夜にヒカリの元を訪れた事には後悔はありません。」
「いえ後悔なさって下さい。女性の無防備な時にばかり訪れていましたらヒラノ様に嫌われますよ。」
アーサーはフローラに一刀両断され精神に軽くダメージを負ったが言い返す言葉は無い。
「最近、殿下にお小言を言う機会が多く残念に思っておりますが、今回も言わせていただきます。
真夜中に女性の部屋に来られるなど賊のする事です。殿下ともあろうお方がなさる事ではありません。更に魔法で階段を作るなど警護する者の気持ちをお考えになっていない証拠、もしヒラノ様の所に殿下以外の不届き者が来たらどうされるのですか!」
階段を放置してしまった事はつい先程破壊される感覚で気づき、自身でも酷く落ち込んでいた。フローラに口にされた事で見事傷口に塩を塗られアーサーの精神はゴリゴリ削られている。
自分の魔法で作ったものなので他人が乗った瞬間に察知し足を凍らせる事は出来るが、光の安全を脅かしてしまった事には変わりがない。
大人しくフローラの小言を受け続けた。




