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月明かりの中、光はバルコニーで今日の出来事を思い返していた。
ベルギー侯爵は自分のせいで死んでしまうかもしれない。平和な国で育った光にはあまりにも重く、自身でした事なのにどうする事も出来ないとう事実も辛いものだった。
アーサーからは今後の予定は一先ずキャンセルになったのでゆっくりするように言われたが、そんな気持ちにはとてもならない。
自分はここに人々を助けに来ているはずなのに真逆のことをしてしまった。
暗い気持ちで風にあたっていると「ヒカリ…」と下から呼ぶ声がした。
光はその優しい声のする方へ顔を向けると声だけではなく表情も雰囲気も全部が月の光よりも優しくまた泣き出しそうになってしまった。
「アーサー…こんな時間に来たら怒られちゃうよ。」
「大丈夫ですよ。私はこれでも隠れるのが得意なんです。それに…今はヒカリの傍に居たいので…そちらに行っても良いですか?」
光はアーサーの問いにコクンと頷いた。
どうやって登ってくるのかと思っていると、アーサーは氷の階段をつくり庭とバルコニーを繋ぎ思わず「綺麗…」と言葉がもれる。階段を上がってくるアーサーは間違いなく王子様だった。
「少し…冷えていますね。」
アーサーは光の頬に触れ光が冷えているのを確認すると上着を脱ぎ光の肩にかけた。ふわりと香る薔薇の香に、まるでアーサーに抱きしめられた感覚におちいった光は恥ずかしくなり俯く。
「あ、アーサーが冷えちゃうよ!」
「大丈夫ですよ。」
「でも…」
心配そうな光にアーサーは「では、こうしましょう」と後ろから光を抱きしめる。
アーサーの大胆な行動に光の頭の中は大パニックになった。
顔は真っ赤になり今にも湯気がでそうな程で、アーサーが光の耳元で「ヒカリは可愛いですね…」と囁いたりするから昇天寸前だ。
「あ、アーサー…ちょっと刺激が強すぎて…」
光はアーサーに離れるよう促すがアーサーは全く応じてくれない。為す術もなくアーサーの腕の中にいると状況に慣れたのか段々と落ち着いてくる。
「…アーサー少し元気が…ない…気がする」
「そんな事ありません。ヒカリに会えて元気いっぱいです。」
「嘘…。私のせいだよね……ごめんね。」
光はアーサーの方に身体を向けてその背中に腕をまわす。
一瞬、アーサーの身体は強ばったがすぐに力はぬけ光に身を委ねた。




