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次の日、起きた瞬間からフローラの厳しい指導は始まった。
自分で服を着ようとして止められ、朝食を食べるのに順番やカトラリーの使い方を指導され、座って居るだけでも姿勢を注意される。
正に鬼教官であった。
「フ、フローラ怖~い。」
「貴女も、レディースメイドとしての教養に欠けるようですので私が指導しましょうか。まずはその言葉遣いからかしら。」
「結構です!大丈夫です!!」
光は目の前で繰り広げられるフローラとマリナのコメディを優雅な令嬢のような佇まいで見ていた。心の中ではドレスの苦しさや姿勢のキープに辛さを感じていたが、それを表に出そうものならフローラから指導が入る。
自分で望んだこととはいえ、光はすでに後悔していた。
お昼過ぎになってアーサーが光の部屋を訪ねてきた。
昨日とは違いきちんと礼をしてみせた光にアーサーは微笑みを浮かべ光の努力を讃えた。
「ヒラノ様は努力家ですね。」
「あの、そのヒラノ様やめて下さい。ヒカリで良いです。私もアーサーさんって呼んでいますし…。」
「では、ヒカリと呼ばせてもらいます。ヒカリも私には敬語は不要です。」
「わかりま、わかった。」
少し打ち解けたところで光はアーサーからこの世界について説明を受けた。
光が呼ばれたこの場所はスガ大陸にあるイペリット王国という国で、大陸にある五つの国の中で最も大きい国だった。
この世界では500年に一度大災害が起こり、その度に異世界から救世主を呼び災害から救ってもらってきた。そしてまた500年が過ぎた今、また大災害が起こっている。
「500年前は植物が枯葉てるというものでした、今回は全ての植物に毒性が含まれるというものです。」
「毒性?!全部の食べ物って事は…私も毒を……。」
「安心して下さい。異世界からの救世主のヒカリには影響がありません。歴代の救世主は何かのかたちで災害から逃れる力を身につけていましたので。」
「そ、そうなの?でも私は何もそれらしいもの感じないけど…。」
光は自分の身体を確認してみるが、どこにも変化を感じない。
不安になっているとアーサーは一冊の古びた本を光に差し出した。
「これは……?」
「前に召喚した救世主の日記です。私達には読めませんが、ヒカリなら読めるでしょう。今回の大災害で毒の蓄積量が多い者は動く事すら叶わなくなり苦しんで亡くなる者も出てきています…どうか、力を貸して下さい。」
光は力のこもるアーサーの手を優しく握った。