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ベルギー侯爵は王の話に今代の聖女と自分のやり取りがフラッシュバックした。ブンブンと首を左右に振りそれを払拭すると王の話に再び耳をかたむける。
「その後、人々の首にまるで死神が宿ったかのようなタトゥーが浮き上がったそうだ。その時代は病が急速に広まり特効薬はあるが生産が追いつかぬ状態だった。タトゥーが浮き上がると特効薬が効かなくなったそうだ。」
「な?!」
侯爵は自身の首を触り顔を真っ青にした。今の話から察するに同じものが自分の首にある。死を待つのみだった者達と同じものが自身にもある恐怖で侯爵の身体は震え出した。
「へ、陛下…現在の有り様からは想像できない話にございますがどのように終息したのでしょうか。」
「王が変わり多大な被害を出した後に一部の者のタトゥーが消え助かったというが詳細はない。故に聖女の地位は王と並ぶものとされている。」
侯爵は誰にも届かぬ声で「そんな…」と呟き今にも倒れ込みそうだった。
その様子に王は哀れみの目を向け極秘事項とされるこの話をもっと早く広めるべきだったと後悔していた。
一言も話さずそのばにいるアーサーは自分の命のことしか考えていない侯爵にどこまで自分勝手なのかと侯爵を糾弾したいのをグッと抑えている。
「さて侯爵、再度問う。先程の話は事実か?」
侯爵の頭の中はこの呪いを聖女に解かせる事と死にたくないという思いしか無かった。王の言葉には答えず縺れる足を必死に動かし部屋を出ようとする侯爵だったがドアを開けようとしても開かない。
「な、何故だ……」
何度ドアノブを回してもガチャガチャと音がするだけで開く様子のないドアに侯爵が焦っていると後ろから肩を叩かれた。振り返った侯爵は頬に強烈な痛みを感じたかと思うとドアに叩きつけられ意識を飛ばした。
「……逃亡しようとしましたので取り押さえました…」
「そのような言い訳をせずとも良い。」
王はやれやれと外に待機している兵を呼んだ。
部屋に入ってきた兵は王に言われ意識のない侯爵を引きずってすぐに退室し、部屋には王とアーサーが残された。
「そのような姿、初めて見たな。」
「…お見苦しいところをお見せしました。」
アーサーが頭を下げると王は苦笑いする。
自身の子にしては真面目すぎるくらいのアーサーに王は行く末が心配になった。
「アーサーよ、過去の件で王族が聖女に恋情を抱くのは禁忌とされている。」
「…心得ております。」
「しかし、聖女からの望みであればその限りでは無い。頑張りなさい。」
王はそれだけ言うと部屋から出て行った。




