28
アーサーはベルギー侯爵を城に連れ戻すと応接室に向かった。
アーサーがノックをして入るとすでに王が椅子に座っており、アーサーと侯爵は王に向かって礼をする。
「よい、楽にせよ。」
「陛下まで居られるとは…殿下は聖女に大変ご執心とみられる。」
「侯爵、私はまだ発言を許してはおらんはずだが…」
「大変申し訳ございません。」
侯爵が頭を下げると王はまず侯爵に問いかけた。
「アーサーよりベルギー侯爵が聖女に暴力を振るったと聞いておる。侯爵、それは事実か?」
「陛下、そのような事実はございません。聖女は殿下に出鱈目を吹き込み私を陥れようとしているのです。コレがその証拠でございます。」
侯爵は首の包帯を取った。そして悲壮な表情で王に訴えかける。
「私は聖女に、あの下賎の者に恐ろしい呪いを受けました。」
「ほぅ……」
「事もあろうに私に向かって毒言をはき癒すどころか呪いをかけたのです!あのような危険人物、即刻追い出すべきでございます。いえ、処刑致しましょう!」
王とアーサーは侯爵の熱弁を黙って聞いていた。汚いものをみるような目で自身に酔いしれる侯爵を見ていても侯爵自身は気づかない。
アーサーは怒りを溜め込みすぎ吐き気を感じていたが、冷静になれと自身を叱咤する。しかしその足元はコントロールしきれず漏れた魔力により凍りついていた。
王はまだまだ修行が足りない息子に内心ため息をつきつつ侯爵の処遇をどうするか考える。
「侯爵よ、少し昔話をしよう。何代か前の王が聖女を呼んだ際、王は聖女に一目惚れし求婚した。しかし、聖女には元の世界に恋人がおり王の求婚を断った。」
「なんという無礼な!」
「王は手に入らないならと聖女の地位を剥奪し自分を頼るように仕向けた。」
「当然です!いえ、まだお優しすぎる程でございます。」
王の話しに侯爵はとても興奮した。
わざわざこのような話しをしたという事は今代の聖女を同じように地位を剥奪するという意思表示だと思ったのだ。ざまあみろと心の中では小躍りをしたい気持ちだった。
「しかし地位を剥奪した事で思いもよらぬ悲劇が起きた。聖女の力を取り込むことはできないかと企む者や聖女の容姿に惹かれた者達が聖女に無体を働いたのだ。王は急ぎ聖女を保護したがその顔からは優しさは失われ、冷たい瞳で全てをみていた。
そして、聖女は王に一言こう言った。「こんな世界、滅んでしまえ。」っと…」
侯爵は先程までの気持ちが反転し息を飲んで話を聞いていた。




