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「な…何だこれは……」
ベルギー侯爵は自室で鏡をみて戦慄した。
自身の首に突如現れたドクロと鎌のような模様は鏡越しに睨みつけているようにみえる。こんなもの今朝支度した時には無かった。一体何故、そう思ったところで先程の出来事が頭をよぎった。
聖女が暴言を吐いた後に出てきた黒いモヤ、それしか原因が思い当たらない。
「あんの下賎の女め!あいつの仕業か!!」
侯爵はテーブルを蹴り飛ばし椅子を床に叩きつけ当たり散らす。
怒りを全て吐き出すかのように暴れ部屋が滅茶苦茶になったところでようやく気がおさまった侯爵は大声でメイドを呼び部屋を片付けるよう言いつける。
侯爵に怯えながらも数人のメイドが部屋に入り片付けを始めると侯爵はその内の一人を引っつかみ乱暴に連れ去った。
連れ去られたメイドはガタガタと震えながら「お…お許しください…」と必死に侯爵に願うが、侯爵はその声を無視してメイドを別室に連れ込んだ。
「ヒッ……ィャ……ャメテ…」
「お前、私に指図しているのかぁ?下賎の身でなんと図々しい!!お前は大人しく私に身を捧げていれば良いのだ!!」
侯爵がメイドの服に手をかけた瞬間、タイミング良くドアがノックされた。
侯爵は苛立ちながらも「何事だ!」と聞くと執事が慌てた様子で部屋に飛び込んでくる。
「旦那様、アーサー殿下がお見えになっております!」
「なにぃ?フンっ、どうせあの下賎の女が泣きついたんだろう。まったく忌々しい…」
「殿下を応接室にお通ししようと致しましたが、殿下が拒否されまして…」
「~~~すぐ行く!」
侯爵は部屋から出て一度自室に戻り鏡で身なりを確認し髪を整えた。
首の模様が襟から見えイライラしたが包帯を持って来させ首を怪我したように見せかけ隠すと急いでアーサーの元に向かった。
「殿下、このような場所に態々御足労頂きありがとうございます。」
「挨拶は良い。本日の聖女との一件聞き及んでいる。聖女は王と同等扱いとなる為貴殿の行為は王に手をあげたも同然、城へ同行いただこうか。」
「殿下は勘違いされております。私は被害者だ!ですが…私は無実を証明する為に城に戻りましょう。」
侯爵は聖女を失墜させる良い機会ができたと心の中でニヤリと笑った。抵抗もせず大人しく馬車に乗った侯爵を執事が不安そうな顔で見送った。侯爵は何でもないような表情をしていたがアーサーは瞳の奥に怒りの色がみえていた。
「この屋敷はもうダメかも知れないですね……」
そう呟くと屋敷で働くもの達にエントランスに集まるよう指示し自らは金庫へ向かった。




