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「まずは謝罪させていただきます。今、ヒラノ様の置かれている状況は全て私が引き起こしたものです。申し訳ございません。」
「……どういう事ですか?」
「私は、救世の呪という魔術を用いて別世界に住まう貴女を召喚しました。身勝手は承知の上です。どうか、私たちをお助け下さい!」
アーサーの鬼気迫る様子に光はアーサーを元凶として怒ることが出来なかった。少しの会話しかしていないがアーサーの人柄は良さそうで、余程の事がない限り誰かを犠牲にする選択はしなさそうだ。
「助けるって……私は特別な力なんて何も無い一般人です。貴方達を救う存在ではありません…家に、元の世界に帰してください。」
光の言葉にアーサーは顔を歪めたが頭を下げていた為に光には見えなかった。アーサーとしても光をすぐにでも帰してやりたい思いはあるがそうはいかない。
「申し訳ございません。すぐには……。最低でも一年以上かかります。」
「一年以上…?」
「帰す為の魔術の発動可能時期が一年以内に来ない事が分かっています。更に必要なアイテムを揃える必要もあり…一年はこの世界にいていただく事になります。
衣食住に不自由はさせません!こちらに居る間、どうか…」
光は落ち着いていた。
アーサーの必死さがそうさせたのか、きちんと帰る事ができるという事実に安心したからかは分からないが少しだけ冷静になれた。
そして、冷静になった光の中にアーサーを助けたいという気持ちが芽生えた。
「元の世界に帰るまでの間だけ、貴方の力になります。……と言っても何が出来るか分からないですけどね。」
下げていた頭を勢いよくあげたアーサーは光の手を取り、泣きそうな顔で光に「ありがとう…。」と囁いた。
今日はもう疲れてしまった為、詳しい話は明日にしてもらい光はアーサーが用意した部屋に案内された。
部屋に入り真っ先に目にとまったのはキングサイズの天蓋付きベッドだった。
可愛いもの好きな光としては憧れの存在で、これだけで異世界に呼び出された事実を許してしまいそうになってしまう。
「ハァ…憧れが今ここに!!」
憧れのベッドにダイブし柔らかさを堪能しているとドアがノックされた。
慌ててベッドから飛び起きシワをのばしているとドアが開かれる。
「ヒラノ様、失礼致します。」
入室してきたのは白いエプロンと帽子を被り黒いワンピースを着た二人のメイドだった。二人が丁寧にお辞儀をしたので、光も慌ててお辞儀をする。
「ヒラノ様付きのレディースメイドを務めさせていただきますフローラと申します。」
「同じくマリナと申します。」
「「以後お見知り置き下さい。」」
フローラとマリナは再度綺麗にお辞儀をする。
本物のメイドに会えた事に感動した光は「すごい…本物だ~。」と声がモレ慌てて口を塞いだ。
「えっと…平野 光です。宜しくお願いします。私は偉い人でも何でも無いのであまり畏まらないで下さい…。気軽にヒカリと呼んで欲しいです。」
「じゃあヒカリ!」
「コラッ!マリナ!!申し訳ございません。マリナが失礼を致しました。ヒラノ様は歴とした国賓でございます。」
フローラのプロ魂をみて光はとりあえずそれ以上言及するのはやめた。
フローラの居ない時にマリナから攻略していけば良いのだ。時間はたっぷりある、焦る必要は無い。
それよりも光は別の疑問を解消しておきたかった。
「フローラさん、アーサーさんはどの様な立場の人なのですか?」
「アーサー殿下はこの国の第二王子で魔術師団長も務められています。」
「殿下?!第二王子!!私…不敬罪で殺されるんじゃ…。」
「そんな事しませんよ。」
ドアに寄りかかるアーサーに驚きつつもフローラとマリナはサッと頭を下げた。
「アーサーさん…いつの間に。あ、アーサー殿下!」
「殿下なんて付けないでください。むしろ呼び捨てでも構いません。」
「それは流石に…じゃあアーサーさんのままで……。」
アーサーは光にニッコリ微笑みだけ返した。王子様スマイルは光には少し刺激が強く、危うく召されかけた光だったが何とか正気を保った。
「アーサーさん、何かあったのですか?」
「実は夕食の招待に来たのですが……。」
「招待!」
「ええ、私の兄弟も一緒になりますがいかがでしょうか。」
「兄弟って事は…王子様だらけ……。マ、マナーに自信が無いので今日はちょっと……。」
引きつった笑顔で断った光にクスリと笑いながらも次回は一緒にと引き上げていったアーサーを見送ると光はフローラに向き直った。
「私に、マナーを叩きこんで下さい!!あの王子を見返してやるっ!」
「アーサー殿下は馬鹿にした訳では無いと思いますが…分かりました。私でお力になれるのでしたら。」