16
「と、とりあえず過去の聖女が伝えたマッサージは出鱈目という事は分かってもらったかな。」
「ええ…ありがとうございます……」
少し気まづい空気の中、光とアーサーは先程の事がチラつき言葉に詰まる。
流石に見兼ねたフローラが機転をきかせて新しい紅茶を用意した。
「ん?この紅茶凄く香りが良いね。」
「薔薇の花弁を使用したフレーバーティです。」
「薔薇も紅茶になるんだね。」
「お気に召していただけて幸いです。この紅茶は王妃様も好まれて良く口にされます。」
「母上は薔薇が好きで紅茶以外にもお菓子や香水にも薔薇を使われているのですよ。」
「そうなんだ~。」
王妃について全く知識の無い光は優しい微笑みと共に母親の事を語るアーサーの様子からきっと優しい母親なのだろうと想像した。
「王妃様ってどんな人なの?」
「「「トラブル体質の年齢不詳の天然薔薇愛好家ですね。」」」
声を揃えた三人の回答が予想の斜め上過ぎて光の中の王妃像は全く定まらない。
「母上は知らぬ者が見れば二十歳前後の令嬢に見え、一日に五回は何らかの事件に巻き込まれるのです。行動範囲を薔薇の温室に限っていたとしてもそれは変わりません。」
「一日に五回……それは凄いね…」
「幸いな事に全ての事件が王妃様の身に傷が付いたり命が脅かされたりという事は無いのですが…」
「王妃様のメイドや護衛は気が気じゃないから気の毒…」
何だか不安になる情報しか出てこない王妃に光は会いたいような会いたくないような微妙な気持ちになった。
「例の件もありますからヒカリも会うことになりますが、どうか巻き込まれないように注意して下さい。」
「巻き込まれる可能性が?!」
「これまで何度も…」
「ちなみにどんな事件に…?」
「最近だと…三日前に母上と薔薇の温室に向かう途中、訓練中の兵士が弾いた槍が何故か母上目掛けて飛んできて、護衛が弾いたらそれが今度は果物を持ったメイドの籠に当たり、散らばった果物で滑った護衛達が私の服を掴み破れる…というものがありました。」
なんの喜劇だとツッコミたくなるようなパーフェクトな落ちだか光は護衛が気の毒になってしまった。そんな事が日常茶飯事だと私なら確実に移動願いを出してしまうがもしかしたら彼らには権利が無いのかもしれない。
「王妃様の護衛って大変だね…」
「他の三倍の給料を出して何とかしてもらってます。」




