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「二人は深呼吸って知ってる?」
「しんこきゅう…?」
「それは武術の技でしょうか?」
真面目な顔をして聞いてくるフローラが可笑しく光は吹き出しそうになったがグッと堪える。
「深呼吸は呼吸、息の吸込み吐き出しの仕方の一つだよ。」
「体術で通常の呼吸を少し変える事はありますが、しん呼吸というものは初めて聞きました。」
「では深呼吸について軽く話すね。深呼吸とは深く呼吸する事で通常より多くの空気を取り込み身体に巡らせる事です。緊張を解いたり安らぎをもたらす効果があります。実際に行っていきましょう。」
光はまず目を閉じるように指示した。
そのままでは余分な力が入っているので「力を抜いて~。」と声を掛けながら二人の肩を前後に揺らし、息を吐き切った状態にする為に口を少し窄め十秒間ゆっくり息を吐いてもらう。
苦しさから少し身体に力が入って震えるマリナに苦笑しながら今度は鼻からゆっくり空気を吸って十秒カウント。
マリナは配分を間違えてまた震えていたが、フローラは多少力が入ったくらいで初めてにしてはとても上手かった。
二回目からは腕を後ろに引き胸を開きながら繰り返し、少しずつ二人は慣れ始め程よく力も抜け深呼吸をマスターした様子だった。
「はい、終わります。どうだった?」
「何だか身体が少しだけ軽い!」
「とてもリラックス出来ました。深呼吸とは素晴らしいですね。」
二人共先程までは白っぽい顔をして居たのに今は頬が薔薇色になりとても健康そうな顔色だった。
光はまさかと思いつつ二人のステータスを見ると状態から毒(小)が消えている。
「アレだけやったのに……。」
午前中たくさんのポーズを取ったがどれ一つ毒を消し去るものは無かった。なのに深呼吸を教えただけで毒(小)が消えた。
光は愕然としその場に崩れ落ちた。
「ど、どうされたのですか?!」
「体調悪い?!医者呼びます?!」
「違うの……私だけの力みたいなんだけど……二人から毒が抜けたみたい。」
「「え?」」
「まだヨガを教えた訳じゃないんだけどね…。体調が良くなる事は良い事なんだけど、私の午前中……。」
フローラとマリナな自分の胸に手を当てたり脈をとったり自身の状態を確認する。身体が正常な事を確認すると二人は互いの顔をみて頷きフローラはまたアーサーを呼びに部屋を出た。
「凄いですよ!久しぶりに身体が凄く軽いです!!ありがとうございます!!!」
感極まり抱きついてくるマリナに複雑な気持ちの光は無理やり自分を納得させる。ステータスの事をどこまで話すか等悩みは尽きないが前進できた事は光の心の負担を少しだけ減らした。




