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「本日も皆様と共にヨガができた事に心より感謝します。ナマステー。」
平野 光はヨガインストラクターとして働いていた。
毎日数回、数人の生徒達とヨガのポーズをとりながら、自身の精神や身体と向き合い調和していく。
癒しと喜びを感じる事ができるヨガインストラクターを、光は天職だと思ってる。
今日のレッスンを全て終えて、片付けを終えた光は元気よく更衣室のドアを開ける。すると、ちょうど更衣室では店長が帰り支度をしていた。
「お疲れ様です!」
「光ちゃんお疲れ様~。」
「店長!聞いて下さいよ~。明日の休みに海でヨガしに行こうと思ってたら天気予報まさかの雨になりました~。」
「あ~それはドンマイ。他の場所にさしたら?」
「ゔ~潮風感じたかったです。」
「諦めな~。じゃあ私今日は先に帰るから!お疲れ。」
「お疲れ様です!」
店長が帰ると光はヨガウェアを脱ぎ帰り支度を整える。
準備を終えて更衣室のドアを開けようとしたその時、光は閃光に包まれた。
「うわっ。何?!」
閃光が消え、光が眼を開くとそこはもう見慣れた更衣室では無くなっていた。模様の書かれた石畳の床、周りを囲む見慣れない格好の人々、髪や顔立ちからしてそもそも日本人でも無さそうだった。
「何?!更衣室じゃなかった?夢?」
光は完全にパニックだった。
自身の頬をつねって確認してみるが痛いだけで夢から覚めない。
「痛い!なんで?!」
「それは、夢ではないからです。」
人垣の一部が割れ、全員が膝をつき頭を下げた。
コツコツと二つの足音が光に近づき、現れたのは軍服を着た淡黄色の髪と紺瑠璃色の瞳の線の細い美青年だった。
光はその青年の美しさに見惚れ、完全に思考が停止する。
「黒い髪に茶色の瞳、伝承にある通りですね。私はアーサーと申します。貴女様のお名前をお聞かせいただけますか?」
「わ、私は平野 光です…。」
「ヒラノ ヒカリ様。確か家名を先に名乗られると書かれておりましたから…まずはヒラノ様と。
大変混乱されているかと思われますが、まずはここに貴女様に危害を加える者はおりません。別室で説明を致しますので私についてきて下さいますか?」
光は少しボーッとしながらもコクンと頷き、アーサーのエスコートでその場を後にした。
パニック状態から脱した光は少し周りをみる余裕が出来ていた。石畳の部屋を出ると、赤い絨毯の敷かれた長い廊下は到底一般の家にはみえず、いつかテレビでみたお城のようだ。
静かに会話なく歩いている為とても気まずい思いをしながら暫く歩いていくと、やっと目的の部屋に着いたようでアーサーが扉を開き光に中へ入るよう促した。
部屋に入ると中は椅子と燭台の置かれたテーブル以外に家具は無く、光がアーサーの向かいに着席するとアーサーは真剣な表情で頭を下げた。