第百三話 追放
「クリフ、君のスキル適性値はいくつなんだ?」
「え、Eですけど…」
「プッ……それでよく魔王討伐の旅に出るとか言えたね」
「は、はぁ……」
旅が始まって1週間、ケイン達は毎日魔物を瀕死にしてはリヒトの前に運ぶ作業を続けた。
その間、ケインとエルナは言い寄られて(当然断り)、クリフは悪口を言われまくり、皆ストレスを抱えていた。
ただ1人、リヒトだけが旅というのは楽しいものだと勘違いしていた。
旅の中には当然楽しみはある。
しかし、ただ用意された魔物を倒してレベルを上げて、夜は高級ホテルと夕食でお楽しみ……
そんな甘い物ではないのだ。
結果、リヒトは痛い目に合う……
「おい、なんでも隣町でファイヤドラゴンが出たらしいぞ!」
ファイヤドラゴンはBランク上位に位置するドラゴンの中では少し弱めの部類に入る魔物だ。
だが、今までDランクの魔物しか狩ってこなかった(それも人に頼って)人間がいきなり2つも上のランクの魔物を狩るなど、平常な思考の人間なら考えない。
けど、反対してもどうせ「逆らうと……」とか言われるだろうから反対するだけ無駄だけど…
いざとなれば僕達が倒せば良いし……
結局ファイヤドラゴンを倒しに隣町まで行くことになった。
隣町に着くと早々に高級ホテルをとって、ギャンブルをしに行くリヒト。
ギャンブルをしに行くといつも、初めは「必ず勝てる」とか言うくせに金貨5枚くらい負けた所で「もう少し金を寄越せ!」とか言ってせがんでくる。
イライラを通り越して呆れている。
本気でコイツは魔王討伐するつもりが無いんだ。
案の定大敗したらしい。
お前が無くしたお金で贅沢をしなければ1年は暮らせるというのを理解してほしい。
見ていると無性に殴りたくなるのでなるべく近づかない。
1日たっぷり遊んだ後、翌日にはファイヤドラゴンの討伐に行くのかと思いきや、なんと2日目も遊んでいたのだ。
3日4日と時間が過ぎていき、1週間が経とうという頃にようやくこう言ってきた。
「なんだ?まだファイヤドラゴンを討伐してなかったのか。仕方ないな僕が討伐してやる」
殺意が湧いてきた。
自分から討伐に行こうとか言っておいてこれだもの。
ともかく、僕達は装備とアイテムを整えてファイヤドラゴン討伐に向かった。
ファイヤドラゴンは炭鉱こ奥に住み着いていて、地形を生かして攻撃してくるから厄介だ。
しかし、こちらにはクリフがいる。
「作戦…というほどでもないけどクリフの空気操作で炭鉱の入り口から徐々に二酸化炭素の濃度を上げていって倒そうか。クリフには悪いけどその間クリフの安全は僕達が守るから」
すると、リヒトが怒る。
「そんなカッコ悪い倒し方があるか!腰に剣があるのなら、それで相手の命を奪ってやるというのが男というもの……クリフ?君にはそういった殊勝な心はないのか?」
女子を無理やり襲ってきた奴が何を言うか……
クリフは難しそうな顔をしている。
「はっ!もういいよ、君達には失望した。僕は1人でファイヤドラゴンを倒そうじゃないか」
炭鉱の奥に進んでいくリヒト。
このままでは死んでしまうだろうからついて行く。
奥には情報通りファイヤドラゴンがいた。大きな体躯をしており、この空間はファイヤドラゴンの影響で暑い。
剣を取り構えるとリヒトが突っ走ってファイヤドラゴンに攻撃しようとする。
しかし、遅すぎる。これではBランクどころかDランクの魔物すら倒せない。
ファイヤドラゴンの硬い鱗には刃が通らず、叩かれたリヒトは吹き飛んだ。
「うぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
身動きの取れないリヒトにファイヤドラゴンがトドメを刺そうとして、口から炎を吐く。
しかし、その炎はリヒトには当たらず大きくずれていった。
クリフが空気操作の能力で空気の光の屈折率を上げたのだ。
水中と違い、空気中ではほとんど光は屈折しないが、それでもほんの少しは屈折している。
あとはそれを大きくしてやるだけで、対象の位置がズレて見えるという中々に強い効果を発揮する。
本当にクリフのスキルは応用力が高い。
と、その間にクリフが攻撃の準備を完成させたようだ。
「コンプレーション・エア・カノン!」
空気中の空気を固定させて発射台を作り、その中に過剰量の空気を入れて、空気の玉を発射する。
見えない上に、威力は桁違いだ。
唯一の難点はチャージ時間が長いところかな。
クリフの放った攻撃でファイヤドラゴンを死んだが、リヒトは面白くなさそうだ。
「よ、余計な事しやがって!僕だけで倒せたのに目立ちたいからとあんな勝手な真似を……お前なんかパーティーを首だ!」
言いがかりにも程がある。今まで我慢していたが、リヒトを殴ってやろうとした時、エレナが前に出て言う。
「あら、それは賛成です。クリフさんにこんなパーティーは似合いませんから」
「おお!勇者殿もそう思うか!」
エルナ!?一体どうしたのだ……
「こんな、毎日毎日怠惰の限りを尽くし、人の気持ちも考えずに世の中を渡ろうと舐め腐って、あまつさえ命を助けてもらっておきながらお礼のひとつも言えない人間がいる、こんなパーティーにクリフさんはいりません。そして、私もここにはいたくないです。パーティーを抜けさせてもらいます」
ああ…なるほどそう言うことか。
それに僕も乗る。
「じゃあ僕も抜けようかな。勇者パーティーはリヒト様だけって事で!」
「な!おい待てお前たち……」
こうして勇者パーティーはリヒトを残して全員追放。実質的な解散であった。
その日の夜に僕とクリフとエルナは集まる。
「今度は……勇者としてではなく、ただの友人として一緒にパーティーを組んでもらえませんか?」
「もちろん!」
「そのつもりだよ」
僕達は新たなパーティーとして旅を始めるのであった……
流石にこれでざまぁ終わりではないです。




