第三十二話 ヴァンパイアロード
「くそ!まさかこんな所に四天王が出てくるなんて」
「おい、テクストとか言ったか?こっちは既に友人めちゃくちゃにされて頭にきてるが、一応我慢して聞いてやる。目的はなんだ!」
「目的……目的ねぇ〜。強いて言えば、強い肉体を操って、この街を占拠することかなぁ〜」
「なんだと……パウロにやったみたいにか!」
「パウロ……?誰だっけそれ…………ああ!その魔法使い君の事かぁ〜。いやぁ〜そいつも僕の目的聞いた時はねぇ〜、『そんなことさせない!』って、勝てる訳ないのに挑んできたんだよぉ。全くもって、滑稽だねぇ〜。実力も無いのにおつむも足りないとかぁ〜」
喋る途中、遂にキレたガンジスがテクストに斬りかかった。
「お前がパウロを語るな!」
大剣は首元に直撃したはずだが、ほとんどダメージがなかったようだ。涼しい顔をして、首に少しだけ刺さっている剣を握った。
「いやぁ〜君達は本当に良いよぉ。そこの魔法使いと違ってねぇ〜」
「黙れと言っているんだ」
「あいつはぁ、自分が好きな子と仲が良いってだけでぇ、ケイン君を殺そうとしたんだよぉ〜?」
「それはお前が操つったから…!」
「違うよぉ〜。僕はほんの少しだけ、彼の心にあった嫉妬心を増幅させて上げただけさぁ」
「そんな訳!……」
「事実だよぉ〜。それとも君も体験したい〜?」
ガンジスの剣に夢中になっていたテクストは、ケインの事を意識していなかった。
いや、忘れていたわけでは無いが、警戒が緩んでいたのだ。
「死ね」
手にした刀で、今の自分に出せる最高速で斬りかかる。
「グッ!グハァ……」
いくら肉体硬度の高いテクストでも、流石にまともにケインの攻撃を受けてはダメージは大きかったようだ。
「はぁっ、はぁっ、……中々やるねぇ。良いよぉ!君のその肉体。欲しいなぁぁぁ」
「お前……馬鹿だろ」
そのまま距離を取り、足元に落ちている石を数個掴んでテクストに投げた。
しかし、なんとガンジスがテクストを庇うように立ったのだ。
「なっ!なんで……」
「もうこの大男くんはぁ、操作完了したんだよぉ。これで3対1だねぇ〜」
石はガンジスに直撃すると思っていたのだろう。
テクストは油断していた。
「自慢げに語ってるとこ悪いけど、その石は今では絶対に狙った対象に当たるんだ」
投石は、ガンジスに当たる直前に曲がったのだ。
そして、初めの目標であったテクストへと向かう。
「ガァァァ!!!」
モロに食らったようで、テクストは動けなくなっていた。
「そんなのありかよぉ〜。ふざけんなよぉ〜」
「ふん。ただの投擲だ」
「でもね、果たして君は僕を倒せるかなぁ?」
「何度も言うが僕の投擲は絶対に当たる」
「それはぁ、投げればの話でしょぉ〜」
「?……!」
「来い!我が眷属」
その瞬間、洞窟中のミニレッサーヴァンパイアが集まってきてケインの周りを囲んだ。
こいつ、ヴァンパイアロードだったか……
どうりでここはミニレッサーヴァンパイアが多いわけだ。
「そいつらじゃぁ君を倒せないだろうけどぉ〜
これじゃあ投げてもミニレッサー達に当たっちゃうねぇ〜。およそ5000匹はいるけどどうするぅ〜?」
「それで終わりか?」
「ん〜?この包囲網を突破できるのぉ?あっ!そうかぁ!たしかに5000匹全部倒せば良いもんねぇ。そうしようそうしよう。じゃあ頑張ってねぇ、僕はぁ、その間に街に行くよぉ」
「出来るもんならやってみろよ」
「君こそそこから出られないくせにぃ。ハッタリなんか使っちゃってぇ。人間ってやっぱり馬鹿だよねぇ」
「いいぜ。やってやるよ」
久しぶりに僕は、盾に魔力を込めた。
全魔力を……
その瞬間、盾からあり得ない大きさの光線が放たれた。
その一撃でほとんどのミニレッサーヴァンパイアは死んだ。
「お供がいなくなって不安か?」
「ひぃぃぃぃ!何なんだよお前ぇ。勇者か!賢者か!」
「ただの適性値Gの冒険者だ」
ニヤリと笑う。
今度は僕の番だ。
「死ねよぉ。何でだよぉ〜。僕は四天王なのに。ヴァンパイアロードなのにぃ〜」
泣いている。
悪いが可哀想とかは思わない。
トドメを刺させて……
その瞬間ガンジスが僕を押し倒した。
チッ、そういえば操られ……て、
僕が顔を上げた時、そこにはレッサーヴァンパイアに心臓を刺されたガンジスが立っていた。
ちなみに、設定上、
ミニレッサーヴァンパイア Eランク
レッサーヴァンパイア Dランク
ミニヴァンパイア Cランク
ヴァンパイア Bランク
ヴァンパイアロード Aランク
となっています。
ミニレッサーヴァンパイアは、一見コウモリのような見た目で、大きさもコウモリと同じくらいで小さく、戦闘能力は低いですが、小回りが効いて、噛む力が強いのでEランクになっています。
この話でケインは盾に全魔力を込めたと言っていますが、完全に全部込めると魔力切れでまともに動けなくなるので、動けるだけの最低量の魔力は残しています。




