番外編(地球) 東京の路線はややこしい
「訳があるって言ったって……見当はついてるの?」
「うーん……可能性としては一時的なパワーアップのスキル、魔術……あとは薬剤投与か……。もしそうならあの力を長時間維持するのは難しい筈だから、長期戦に持ち込めればあるいは……」
「そんな事が可能な相手なのですか?」
田中が聞いてきたところで、ケインは首を残念そうに横に振った。
「1人だけならまだ何とかなるかもしれないけど、2人だからな。最悪なんとかして耐え切ったとしても逃げ切られるかも」
「だったら、俺達や魔法少女の皆んなに協力してもらうとか?」
「それも厳しいな。悪いけどちょっと戦いのレベルが違い過ぎる。それに、正直一時的なパワーアップタイプじゃ無くて、あれは単純にあれだけ強いって方がなんかしっくりくるんだよな」
「何故?」
「まぁ、ただの勘だけど。もしあれ程の力を発揮出来るようになる薬や魔術があるならあの眼鏡がとっくに量産化してそうなんだよ。そうしてなかったのは量産化が難しいか、あの男が独自に手に入れたスキルか、ただあの男が強かったかのどれかだ」
現に、あの場ではあの眼鏡が出してきた戦力はあの大男1人である。もしかしたら他に理由があるかもしれないが下手に数を揃えるよりもそちらの方が効果的と考えたのだろう。
「1番厄介なのは……まぁ言わずともだが、特に何のカラクリも無い場合だな。そうなりゃ正直お手上げだ」
「そんなに強かったの?」
「十回やれば二回くらいは勝てるかなってところだ。今のままじゃまずい」
ケインが頭を悩ませていると、田中が思い出したように発言する。
「そうそう!先程ですが恭弥君と例の写真に写っていた改造された魔物の様なもの……」
「何か情報が!?」
「ええ、どうやら東京のあちこちで発見されているようで……」
「ええと……東京って、この国の首都なんだよな?」
「はい。日本で1番人が多いです。しかも、現在は渋谷で目撃されています」
渋谷と言えば若者の街。渋谷駅の乗降者数は世界でも2番目という超都会である。
「うーん……何でそんなところに現れたんだ?ひょっとして、身を隠したいって訳じゃないのか?」
「分かりませんが……兎も角行ってみる価値はあるでしょう」
「そうだな、どうせあの大男に現状勝てないわけだし、居場所も突き止めた。倒すための手掛かりがあるかもしれないし、東京に行くとするか!それじゃ縮地を……」
「「待ってケイン(さん)!」」
東京へと縮地をしようとするケインを慌てて田中と響也が止めた。
「うおっ、何だよどうしたんだ2人とも大声で……」
「今、東京のどこに縮地しようとしましたか?」
「何処って……渋谷だけど」
「絶対にやめて下さい」
「そんな事したらすぐバレるよ」
「いや、ちゃんと人気の少なそうな所に飛ぶからさ……」
「渋谷なんて人ばかりです!何処に飛んでも縮地の瞬間を見られるリスクはあります!」
「えぇ……そんなに?」
「ケインさん、我々の住んでた惑星ジムダとは人口の桁が違います。ケインさんは、ここ岐阜の事をどう思っていますか?」
「どうって……都会だなくらいに思ってたけど」
「具体的には?」
「ジムダの大国の首都並みか、少し劣るくらいかな」
「そうです。ですが、東京は岐阜とは比較にならないくらいの超都会です。特に23区は別格。その中でも渋谷は軽く見積もって5本指に入る程度には都会です」
「ちょっと想像し難いんだけど」
「要するに、もっと遠くに縮地して、それから電車で向かいましょう」
「分かったよ。何処に飛べば良いんだ?」
「うーん……23区は論外として、横浜なんかの東京意外でもそれなりに人は多い……。ケインさんでも電車で行けそうな手頃な田舎となると……西多摩になりますね」
「西多摩って何処?」
「この地図を見て下さい」
田中はスマホを取り出して東京の地図を見せる。
「この東京の左の方です。都下でも武蔵野市や立川なんかは発展してるので……八王子か奥多摩あたりにしましょう」
「なるほど。分かった、ここら辺に飛べば良いんだな」
「ええ。ですが、駅前はやめて下さいね。近くに山が沢山あるのでそこら辺に飛んで下さい」
「了解。……じゃ、『縮地』!」
………………………………
………………
……
「ここが東京か……岐阜の方が都会じゃないかなこれは」
ケインが飛んだのは高尾山である。適度に自然があり、正直思っていた様な都会では無い。
大袈裟だったのだ田中と恭弥が、と思う。
そして、連絡用の携帯が鳴った。
「ケインさん、無事東京に着きましたか?」
「ああ、着いたよ。それで、渋谷に行くにはどうすれば良いんだ?」
「まずは山を降りて駅を探して下さい。近くにそれらしきものは見えますか?」
「……なんかそれっぽいのはあるな」
「良かった。東京の電車は少しややこしいのですが、ケインさんなら大丈夫でしょう。まずは高尾山口駅から出ている京王線に乗って下さい。そして新宿まで行ったら山手線か副都心線あたりで渋谷に行く路線があるはずなのでそれに乗れば着きます」
「……?分かった」
「良かった。ケインさんはしばらく携帯の充電が出来ないと思うので一度電話を切りますね。着いたら連絡下さい」
「あっ……」
ケインが何か言おうとした時には既に電話は切れていた。
「……高尾?取り敢えず駅に行けば良いんだな」
ケインは近くに見える駅へと歩いていった。
1時間後……
再び田中から電話がかかってきた。
「どうです、ケインさん?そろそろ着きましたか?」
「なんかそれっぽい駅には着いたよ。確かに都会だな驚いたよ」
「そうでしょうそうでしょう。そこから渋谷に向かう為に山手線に……」
「山手線って何処にあるの?」
「ああ、すみません。緑色の路線です」
「なるほど……あ、あった。これかな?」
丁度ケインが電車に乗った所で発車した。
「おっと、電車の中で電話は良くないですね。一度切りますが、まぁ渋谷に着いたらまた教えて下さい」
そう言って田中は電話を切った。ケインは安心した様な顔でスマホをポケットにしまった。
(良かった……何だかよく分からない駅ばかりだったけど、ちゃんと山手線とやらに乗れた様だ)
「次は片倉〜。お出口は右側です」
ケインが乗ったのは横浜線だった。
どうやら高尾山口ではなく、高尾駅から八王子駅に行ってしまった様です。