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番外編(地球) 眼鏡の男



「たしか、写真の場所はここだったよな……」


ケインは写真で見た場所に『縮地』した。

辺りがまだ少しだけ明るいのもあり、山の景色は見ようによっては何かのスポットにも見える。

しかし、場所が特定出来たから来てみたは良いものの……


「ここからどうしよう……流石にあの写真の場所にまだいるわけ無いだろうし、取り敢えずは聞き込みかな」


幸いこの近くには長与町という街がある。地方とはいえそれなりに人もいるだろう。

地球に来て感じたが、どうやら若い人は警戒してか初対面の人の話は中々聞いてくれないらしい。とすれば話しかけるのは高齢者だ。


「兎に角……ちょっとこの山の中じゃ今は出来ることが少ない。早いとこ街に行きたいんだけど……どこに行けば良いんだ?」


スマホは動く。だが、ケインはまだマップのアプリを使いこなせてはいなかった。

空から見れば早いのだが、ここが何処だか分からず、近くに人がいる可能性もあるのだから、あまり目立つような真似をするのは躊躇われる。


「ま、良いや。適当に歩いてりゃそのうち下山出来るか」


ケインは下山を始めた。坂を下っていけばその内街に出るだろうと思い下っていった。

だが、残念ながらケインが歩いていったのは街とは反対方向である。

どんどん山の奥の深い方へと進んでいってしまったのだ。

1時間ほど歩いてようやくケインも気づいた。


「……これ進んで無いよな?というか更に深い所に行ってる気がする」


既に日は沈んでしまっており、暗い所でもそれなりに見えるケインも少し怖さを感じ始めていた。


「嫌だなぁ、一回縮地して恭弥の家に戻った方が良いか?」


この様な場所に町人など居るはずもない。改造された疑いのある魔物なら居るかもしれないが、この広い山の中で当てずっぽうに歩いて見つかるとも到底思えない。

一度家に戻るか……と思ったその時、


(殺気!)


少し前方から、それまで気配を隠していた何かが、突然殺気を出してきたのだ。

……と、同時に銃声が鳴り響き、ケインに向けて一直線に鉛の弾が飛んできた。

縮地の準備をしていたのと、夜の山だったのもあり、回避が遅れてまともに喰らってしまった。

とは言っても、左肩が撃たれた程度である。弾は貫通しており、数秒もあれば『回復の基本』で元に戻る。

大した問題はない、痛みはあるが耐えられるレベルだ。

問題なのはこの銃弾は硬いケインの体を貫通させる程の威力があるという事だ。

左肩に当たったのは幸運だった。おそらく左胸……心臓を狙っていたのだろう。

そこを正確に当てられていたら、ケインでも死んでいた可能性がある。

このレベルの攻撃はガルドのベンタブラックくらいしかちょっと思いつかない。

ケイン達がこれまで、相手の心臓を狙ってこなかったのは、惑星ジムダの生物が皆、攻撃力に対して防御力が高かったからである。首元を狙った攻撃が多いのも、心臓狙いで剣を振っても肋骨に邪魔されてしまい、致命傷にならない場合があるが、首なら頸動脈を切って致命傷となる可能性が高かったからである。 

更に、魔力やステータスによる防御力の上昇もあり、急所以外への攻撃が大した痛手にならないのだ。特にケインは惑星ジムダで魔王ガルドに次いで最強の存在である。生半可な攻撃では大した通用しない筈だった……

当然ケインは警戒した。警戒したが……


「……やってくれるじゃん」


いきなりの銃撃と命の危機に少し苛立ちを覚えていたのだ。先制攻撃を許してしまった屈辱、ここ数日の思い通りにいかない件。それらが溜まり、ケインにしては珍しく腹が立っていた。

ケインは推測する。

音の感じからして、そんなに遠くない。

よく観察すればすぐに気配にも気づけたレベルだ。


ケインは200メートル程前方に『縮地』する。

目の前には屈強な大男と眼鏡の痩せ細った男がいた。


「ビンゴ。適当に飛んだけど当たるもんだな」


ケインは少しだけ笑みを浮かべた。服に血がついているのもあり、その笑みは猟奇的なそれにも感じられる。

一方眼鏡の男は口を開けてあんぐりとしていた。

当然だ。この世界には瞬間移動など存在しないのだから、目の前の少女が有り得ない事をしたと感じ、研究者として興味が生まれたのだ。


数秒を口を大きく開けた後、眼鏡の男はケインに尋ねる。


※読み飛ばし推奨


「き、キミィ!今のはどうやってやったんだ?いや、そもそもどうやってこの山に入って来た?結界が張ってあったから簡単には入る事が出来ない筈だ。どうやったんだ?もしかしてその能力を使ったのか?この山には登ろうとすると下ってしまい、下ろうとすると登ってしまうという反転効果の結界を付与してあるのだ。お陰で余計な人間が入ってこないから助かると思っていたのだが……どうやらキミは違ったらしいな。考えられるのはその能力を使って山の途中に移動した後に下ろうとした結果逆に登って来てしまった……といった所か?どうだ?俺の考察は当たっているか?あ、そうだ、その能力は魔法かい?スキルかい?魔法ならぜひ俺にも教えてくれ。スキルならそうだな……近くに研究所がある。そこで詳しく研究をしたい。ああ、無論キミにも益のある話だよ。その能力を使えば俺の作る軍隊は更に完璧なものとなる。キミもその協力者として幹部体制で迎え入れようじゃないか。素晴らしいよ、その能力は。不意打ちにピッタリじゃないか!私の軍でも空を飛ぶ事が出来る様になる研究をしていたんだが……あのクソ餓鬼が……運悪く逃げてしまってね。おっとそんな事はどうでも良いんだ。正直瞬間移動は1番欲しかった能力なんだ。それさえあれば並の兵でもかなり優秀な強さになる。その能力のデメリットは何か教えて欲しいんだが……パッと見た感じだが、魔力消費が大きいとかかな?いや、そもそもその能力は瞬間、なのか?少しラグがあったりする可能性もあるな……そもそも、ひょっとしてキミのその能力は瞬間移動などでは無く、ただ単に超スピードで動いているだけだったりするかい?うーむ難しい。それもスキルなら良いんだけど、そうじゃ無くてキミのステータスならスキルの複製は難しいな……でもそうなるとどうやって山の中に入って来たのかが疑問になるが……まぁ良いそこら辺も含めて私の研究所で話をしようじゃないか。兎も角ここにいるという事は只者では無い筈だしな。色々と話をし……」


「長ぇよ」


あまりに饒舌に語る眼鏡の痩せ男をケインは蹴り飛ばした。

ケインからすれば軽く蹴っただけのつもりだが、その蹴り一つで眼鏡の男は10メートル

以上吹っ飛んでいった。

そしてもう一度縮小をして、眼鏡の男を踏みつける。

吹き飛ばされた眼鏡の男は懲りもせず目を輝かせて話し始める。


「そう!その能力だ!パッと見だが、やはり瞬間移動の様に感じるな……どうやってやったのか教えて欲しいだけなんだよ。何か気に触った事を言ったのならば謝るが、そもそもとしてこんな山の中に女1人で居る方が警戒心が薄いという……」


尚も話し始める眼鏡の男にケインは睨みを効かす。


「お前、分かってるんだろうな?お前がさっき僕の事を殺す気で撃ったという事」


眼鏡の男の表情が初めて焦りへと変わった。



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