番外編(地球) ケインと魔法少女達⑳
「あるんだなこれが。最後だから教えてやるよ。僕のオリジナルスキルは『スキル重複』。あらゆるスキルが何度でも取得でき、効果も重複するんだ」
「馬鹿な……儂……は、貴様を……」
既に10秒以上首を絞めているが、それでも落ちない。
魂エネルギーのせいだろう。
とはいえ、効いてはいるようだし、抵抗も出来ないようなのでこのまま絞め続ける。
「ケイン……を……彼の方にアスタ……さ、まにさし……だし………」
この言葉を聞いて、ケインは顔色を変える。
「おい!彼の方って誰だ!?そういやお前なんで僕があの星の人間だって知ってたんだ!」
ケインは首絞めをやめて代わりに肩を揺さぶる。
「………」
「おい、聞いてんのか!」
だが、何度肩を揺さぶっても起きる事は無かった。
「死んでは無いが……これは起きるまで時間がかかるかもな……」
「じゃあどうするの?まさかそいつが目を覚ますまで待つの?」
「……それしかないかなあ。時間はかかるけど」
「そんな!もう日向はいつ死ぬか分かんないのに!」
「そう言われても……あっ!」
「どうしたの?」
「そういえば、キュウは魂のエネルギーを吸収して分け与えれるんだよな?」
「キュウ!」
キュウな反応した。
「って事はさ、ドン・ステラから奪われた分の魂のエネルギーを奪い返して日向に戻せば良いんじゃないか?」
「そ、そんな事が出来るの?」
「キュウ!」
他ならぬキュウが言うのだから、出来るのだろう。
3人はキュウを信じてみることにした。
「キュウ、この男から魂のエネルギーを出来るだけ沢山奪うんだ。いいな?」
「キュウ……」
「……ん、どうした?難しそうか?」
キュウ達は元々地球で発生した普通の魔物だったのだ。
だが、それをドン・ステラに捕まえられて調教され、長い事痛い目にあってきた。
心の奥底まで、この人には逆らえないという恐怖心が根を張っているのだ。
だが……
「キュウ!」
キュウは踏み出した。
日向を裏切った事に対する罪悪感と、それでも自分を助けてくれたケインの期待に、応えたいと思ったからだ。
キュウはドン・ステラの首元に噛みついた。
そして、ゆっくりと魂エネルギーを抽出する。
「うっ……ガァァァァ」
気絶したままではあるが、苦しいのかうなされている。
やがて、全てを吸い尽くしたのかキュウはケイン達の方に振り向く。
「キュウ!」
「ありがとうキュウ。成功したみたいだな」
キュウをそっと抱き抱えるケイン。
だが、時間は無いのだ。
「ケイン!早く日向の元に行かないと……」
「そうだった!そろそろ日向の部屋にいる警察も何処かに行った頃だと思うし、2人とも手を繋いで」
ケインはキュウを抱きかかえたまま全員で『縮地』した。
………………………………
………………
……
ケイン達が去って数分後……
ドン・ステラは目を覚ましていた。
「フーッ……フーッ……許さんぞぉ……ケイン!貴様のせいでぇ……儂の……儂の計画がァァァ!!!!!」
這いつくばりながら何とか立とうとするが、上手く立ち上がれない。
そこに、1人の男が現れた。
「あ、あ、貴方は……アスタルテ様!」
「君……随分と痛い目にあったみたいだね」
「はい、ケインという……貴方様が目をかけておられたあの娘のせいで!ですがご安心ください!このドン・ステラ、必ずやご期待に……」
「ねえ、君、余の事喋りかけてなかった?」
「はっ!?」
「それに、好きに動いてくれて構わないとは言ったけど、あまり人を殺すなとも言って無かった?君1人の強化の為にどれくらい死んだ?」
「いえ、誤解です、そんなつもりじゃ…私はただ」
「誤解とかどうでも良いからそういうの。せっかく与えた『改造』だったけど、君には要らなかったみたいだな」
「おやめ下さい!お願いですアスタルテ様!どうかご慈悲を!」
「ダメだ」
そう言ってアスタルテはドン・ステラの頭に手を当てて何か呪文を唱えた。
その途端、命乞いをしていたドン・ステラも全く喋らなくなった。
その様子を陰ながら見ていたソラが問いかける。
「殺したのですか?」
「まさか、余がその様な事するわけないだろう?記憶を消してオリジナルスキルを没収しただけさ」
アスタルテに本来そのようなスキルは無い。
ルーナが作り出した地球版のシムを用いて擬似的に似たスキルを取得しただけである。
スキルの剥奪に関しても、オリジナルスキルを配布するのにルーナに協力してもらい、そのスキル群のサブマスター権限を借りていただけなのだ。
何故ドン・ステラがこんな事をしたのか、このような能力を使えるのか?
ケイン達は後にアスタルテと対峙する事で全て知る事になるのだが、それはまだ先の話……




