番外編(地球) ケインと魔法少女達⑪
「ど、ど、どうしようケイン!逃げられちゃったよ!」
ドン・ステラ本人のステータスはそこまで強力では無かったので、まだそう遠くには逃げていない筈である。
ただ、夜というのが問題なのだ。
夜の真っ暗な視界では、素早く動くドン・ステラを追うのは難しい上、追跡がすぐにバレてしまう。
というか、既に暗闇の中に塗れてしまい見えていない。
「チッ!……どう……する!」
ケインはどうにかして追わないと不味いと思ったが、万が一追跡がバレてしまっては、日向を治す方法が失われるかもしれない。
とはいえ、このまま逃しても日向を治してもらえるとは思えないし、寧ろ被害が拡大するだけである。
そもそもエネルギーは日向から吸った分だけでは無く、患者全員から吸っているのだ。
見つかって戦闘になったら返り討ちに合うかもしれない。
(どうする!考えろ!考えろ!)
頭をフル回転させて打開策を講じるが、中々思いつかない。
そうこうしているうちにどんどんドン・ステラは遠くに逃げている。
この時日向が目を覚ました。どうやら全て聞いていた様で、自分が騙されていたという事にようやく気づいたようである。
「日向……大丈夫……なわけないか」
「……不思議、さっきまであんなにキュウが愛おしくて堪らなくて、幸せな気分だったのに……全てが苦しくて怖くて辛くなっちゃったの」
「日向……」
震えながら体を動かし、血色を失った日向を見て、全員理解した。
魂のエネルギーを吸われた日向はもう長く無いのだと。
「日向、お願い、貴方のラブ・パワーを使って!そうすれば奴等を追えるの!」
「…無理。私なんて……皆んなが戦ってるのに後ろで応援するくらいしか出来なくて……だから簡単に騙されたんだ……」
「鈴菜、日向のオリジナ……あ、いや、ラブ・パワーって一体……?」
「日向はね……1度会った人のいる場所が分かる『愛の隣人』っていうラブ・パワーを持ってるのよ。それを使えばきっとドン・ステラの場所が分かる……はず」
それを聞いたケインが日向に頼み込む。
「頼む日向!奴の行く場所を教えてくれ!」
「……無理、私なんて……鈴菜に……手を挙げて……ごめんなさい……私は死んだ方が……」
そう言って俯きずっと暗い顔で懺悔している。
日向は魂のエネルギーが吸収されたせいで生きる気力を失ってしまっているのだ。
本来ならここまではならないが、エネルギー不足のせいでずっとネガティブである。
そして、それを見ていた鈴菜が日向の胸ぐらを掴み怒鳴った。
「日向……良い加減にしろ。自分がした事が悪いと思ってんなら償え!生きて償え!生き残れ!本当に悪いと思ってんだったら、生き残る為にまず私達に協力しろ!」
鈴菜と日向は小学校からの長い付き合いだったが、今までこんなに怒った事は無かった。
それだけ鈴菜は、死にたいと言った事に怒っているのである。
俯き驚いて口を開けたままの日向だったが、やがて鈴菜の方を見つめ、暫く見つめ合うとゆっくり目を閉じた。
「……向こう、南の方にある街……小樽のあたりに行ったよ」
それだけ言うとベッドに潜り込んで丸くなった。
「……ありがとう」
鈴菜もそれだけ言うと病室から出て行った。
ケインと日奈子もそれに続いて外に出ていく。
病室の壁が壊された所為で、院内の関係者が慌ただしく集まってきていた。
このままでは自分達に疑いの目が掛かりかねないと考えたケインは病室前で2人と手を繋ぎ少し離れた所に縮地する事にした。
「『縮地』!」
3人は先程落ち合った駐車場に移動した。
「さて、奴の居場所が分かったわけだが、今から行くか?」
「勿論、行かないわけないわ」
「アイツにラブ・エナジーをぶち込まなきゃ!」
「……一応聞くけどラブ・エナジーって何?」
「………………」