外伝58話 『万死』
「君にも『ガーデンライフ』を使ってもらうんだ」
「成る程、因みに今の私の『ガーデンライフ』ならどれくらいの人数を蘇らせられますか?」
「うーん……30人くらいかな」
エルナはこれでも自分は強くなったという自負があった。
直前に鈴木が1億人甦らせる事が出来ると言っていたので、自分と鈴木の魔力量の差は凡そ300万倍と言う事になる。
それなりにショックも大きかったのだ。
「でも……鈴木さんならどうにかして全員を蘇らせる事は出来ませんか?」
クリフが純粋に疑問に思った様で、質問している。
たしかに、魔力量的にはもっと行けると思われる。
何故1億人しか蘇らせる事が出来ないのか?
「えーっとね……アタシの魔力量は実はそんなに多くないんだ1000万かそこらだよ」
「えっ!?」
「マジですか!」
「うん、マジ」
そうなると、『ガーデンライフ』で蘇らせるのに使う魔力は1人当たり0.1になる。
どう考えても計算が合わない。
エルナの魔力量は凡そ15万なので、計算上はエルナにも150万人ほど蘇らせる事ができる事になる。
しかし、実際にはその5万分の1だ。
「これはアタシのオリジナルスキルのせいでね。アタシのオリジナルスキルのうちの一つに魔法の使用時に消費する魔力量を減少させるのがあるんだよ」
「成る程……それで魔力量は1000万なんですか」
「ああ、この星の人間……いや、この世界の人間を全て蘇らせたかったら魔力量は1兆じゃすまないだろうね」
「そんな魔力量……」
「あるわけ無いですね。何とか魔力を回復させてから『ガーデンライフ』を再度使えば……」
「それも無理だね。魔力の回復には時間がかかる。アタシは『超回復』があるから回復は早いけど、それにしても完全回復まで丸一日かかっちゃうからね。『ガーデンライフ』は死んですぐの死体にしか適用されない。もうすぐ時間ぎれだから早く魔法を使わないと」
「そう……ですか。あ!時間を止めたりとか……」
「出来るけど、その状態にするとアタシの魔力も回復しなくなるから意味は無いよ」
「……」
「じゃあ、さっさとかけちゃおうか。この星のランダムな人間にね。『ガーデンラ……」
「NO、させません」
次の瞬間、鈴木の頭が弾け飛んだ。
辺りは血の噴水で真っ赤に染まり、自体を飲め込めなかったエルナや恭弥は呆然と立ち尽くしている。ワンテンポ早く危機感を感じたルーナは、鈴木だった物の上に立つシムを即座に殺しにかかった。
使った技は『万死』。ルーナの奥の手中の奥の手だ。
威力は軽く太陽を破壊するレベルであり、その威力を掌サイズに一転集中させるという、正真正銘ルーナにとって最強の技である。
そのあり得ない威力の代償に自らが所有するスキルを1000個生贄にするのだ。
更に、技を使用後暫くはまともに動けなくなり、自分自身も大ダメージを受けるというデメリットつきだ。
それほどまでにルーナは今のシムを警戒……いや、憎んでいた。
大切な人を殺された恨みが、更にルーナの技の威力に補正をかけた。
「シム!貴様ぁぁぁぁぁ!!!!!!」
しかし、相変わらず無表情でルーナの方を見つめるシムは、それを右手で受け止めた。
「ぐぬぬ……」
ルーナの渾身の一撃をシムは片手で受け止めてしまった。攻撃を受けてボロボロになった右手も数秒程で完全に元通りである。
「……まだこんな隠し玉を持っていましたか。ですが……終わりのようですね」
「貴様ぁ!よくも!よくも鈴木様を!!!」
「NO、残念でしたね。所詮あの男はあの程度だったのです」
そう言ってシムが動けないルーナを手にかけようとした時……
「うちの可愛いルーナに触れないでくれる?」
それを止めたのは先程死んだと思われていた鈴木であった。
「鈴木……」
「アタシがあの程度で死ぬわけ無いじゃん。驚いた?どう?ビックリした?」
飄々とした態度ではあるが、内心は違う。
(どうやって!?どうやってコイツはアタシの灰色の世界から抜け出したんだ!?)
まさかあの世界から脱出されるとは思わず、鈴木は随分焦っている。
そもそも、この状態ではもうシムには攻撃できない。
ルーナや他の者は守れてもシムの破壊活動は止められない。
(どうする……アタシ)




