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外伝45話 利己でも利他でも


「ケイン、この手を掴んでください」


「ルーナさん、一体どこに……」


「来れば分かります」


「じゃあ……」


ケインは言われるがままに手を掴んだ。

すると、先程とは違い物凄い勢いで空間が歪み始め、来た時と同じ様な空間に移動していた。


「察してはいると思いますが、これから行くのはシムの所……命の保証は当然ありません」


「もうその件に関しては覚悟したよ。命が惜しくない訳じゃないけど、今は戦わなきゃいけないしね」


「いえ、そうでは無く。シムの『即死』のスキルが貴方に効かないとは限らないという事です。それ以前の問題として、向こうに着いた瞬間に我々の気配を察知したシムが即座に殺しに来て成す術なく死ぬ可能性もゼロではありません」


「………」


「ビビりました?」


「そりゃそうだろ」


「ケイン、貴方は意外と普通ですね」


「そうか?自分で言うのも何だが、まあまあ戦闘マニアだぞ僕は」


「そうですね。ですが、それだけです。あの勇者エルナやクリフの様な特殊な物は何ひとつ持っていない」


「それは……」


「強さ……だけ。貴方には確かに力があります。しかし、そんなものは彼の方の前では有ろうが無かろうが関係無いのです」



「随分なこと言ってくれますね」


「事実です」


「ルーナさん……貴方」


「でもね、ケイン。そんな貴方に私はシンパシーを感じた。私も力しかない普通の人ですからね」


「ルーナさん……」


「私は、このオリジナルスキルで沢山彼の方に迷惑をかけた。彼の方だけでなく、その途中で犠牲になった人も山の様にいた。ケイン、貴方もそのうちの1人です。ですが、そうまでして生き抜いた私は、特別な力を抜いたら、特別な物は何一つなくなる」


否定は出来ない。

ルーナさんのせいで惑星ジムダが作られた訳だが、その事を今は恨んでいない。

エルナの言う通り、彼女のきっかけがなければ僕達は初めから存在しないことになっていた。


だが、それと罪の話は別である。


それに、話していて思ったが、確かにルーナは悪く言うと神鈴木の腰巾着だ。

彼の為に役に立ちたいと思い、行動してそれが空回りもしている。


彼女からオリジナルスキルを奪ったら残るのは鈴木への思いだけだろう。


だが、それがどうした?


僕もルーナと同じで、オリジナルスキルを無くしたら残るのは戦闘マニアな所だけだ。


それすら、惑星ジムダでは生き残る為に必要な物で、僕特有な物ではない。


それでもエルナが一緒にいてくれたのは……


「タイミング……でしょう」


「タイミング?」


「結局、ルーナさん自身は特別でも無ければ鈴木のオリジナルな存在でも無い。そんな彼が貴方の事を他を犠牲にしてでも救いたいと思ったのは、一番初めに貴方が鈴木のと仲良くなったからでしょう。エルナも一緒です。もし僕の方が先に鈴木と会っていたら……もしルーナの方がエルナと先に会っていたら……」


「まあ、人間関係なんて意外とそんな物ではありますが。私達のような関係はそんな単純では……」


「分かってないですね。寧ろ神鈴木は人間らしさが一番欲していたように見えましたよ?」


「そうですか?私にはそんな感じには見えなかったですが」


「僕達はどっちも平凡です。でも、特別な存在は初めに出会えた特別を理解してくれる平凡が案外運命だと勘違いする物ですよ。特別故にね」


しかし、ルーナはまだ少し納得がいかないようである。


「私は……彼の方の大好きな人間らしさすら持ち合わせていません。半端な力を手にしてしまった代償か、あなた方の様な感情も、悩みも、選択も無いのです」


「……ルーナさん、トロッコ問題って知ってますか?1人の善人を助けるか、5人の悪人を助けるかみたいなやつ」


「ええ、勿論」


「もし僕が自分を犠牲に全人類を救える事になったら、僕は自身を犠牲にします。でも、エルナを犠牲に全人類を救える事になっても、僕はエルナを優先しますよ。貴方はどうしますか?」


「私は……彼の方を救います」


「でも、ルーナさんはここで全人類の方を選べる冷静沈着な人が神鈴木のそばにいるべきだと思うんでしょ?」


「はい」


「けどそれって本当に正解ですか?神鈴木さえ大切な人さえ生きていれば良いという利己的な人も、少数より多数という利他的な人も、どっちもどっちも人の命を選べるという意味ではクレイジーじゃないですか。きっと神鈴木はそういう色んな人間のらしさが好きなんですよ。一番ダメなのはきっと選ばない事。そういう意味ではルーナさんは寧ろ一番鈴木に好かれそうじゃないですか」


「……?何故です?」


「だって、利己か、利他か、悩んで選択できるのは一番人間らしいところでしょう?」


その言葉でルーナはようやく少しだけ微笑んだ様に見えた……


気のせいかもしれないが。


「そう……ですね。改めてよろしくお願いしますケイン」


「はい、よろしく」


僕とルーナさんはより一層強く手を握った。


彼女を励ましたのは僕もシンパシーを感じたからだ。

僕も前に少しエルナに対して似た様な事を考えた事がある。

強さは僕が上でもその思想や姿勢は?


でもすぐに考えるのをやめた。


だって僕にとっても彼女にとっても互いが大事な親友である事には変わりないから。


そんな経験もあってルーナを励ました訳だが、理由は別にもう一つある。

それは……


「あーあ……僕も鈴木より先にルーナさんと会っておきたかったですよ」


と、冗談混じりに言う。

しかし、ルーナはきょとんとした顔で聞き返してきた。


「……?何故ですか?」


「……神鈴木も苦労してそうだなこれは」





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