外伝37話 システム
「クローン……人間?」
「ああ、君達には馴染みの無い言葉だろうけど」
「いえ、恭弥に教えてもらいました。たしか細胞から全く同じに人間をもう1人作り出す技術ですよね?」
「そうそう!それだよ。今でこそ当たり前に使える訳だけど……その技術は当時の力では人間には使用不可だったんだ」
「どうせそれもスキルで何とかしたんでしょう?」
「おっ、分かる?まあそれもそうか。というよりもクローンの技術をアタシのスキルに混ぜて完成させたって感じなんだけどね、それのおかげで数百万人のクローン人間をあの星に送り込めた」
「クローンとなった元の人間は……」
「察しの通り、殆どが外国人だよ」
「何でそんな事したんですか?」
ケインは少し怒っている様子だった。
人間のコピーを作るなんて許されることでは無いし、自分達はその子孫なのだ。
それが同時に悲しくもあった。
「えっとね……まあシンプルに世界観を守りたかったんだよ」
「は?」
「中世ヨーロッパの世界観で黒髪の日本人や中国人なんかがいたら、雰囲気ぶち壊しじゃん?だから日本人は当時1人しか送り込まなかった……」
「そうじゃなくて!何でそんな非道い事が出来たんですかっ!」
半泣きの状態でケインが叫ぶ……
息は少しキレていて、誰の目にも怒りを抑えているのが明らかであった。
「ああ……そっち?まあぶっちゃけ、本物の人間の魂を抜いて市橋瑠奈の器にしちゃうってのは結構罪悪感があったけど、コピー人間ならまあ良いかと思ったからで……」
「貴方は……人間じゃ無い」
「そりゃあ……神様だからね」
「だからって……」
「勘違いするなよ、別にコピー人間なら良いかとは思ったけど、悪いと思わなかった訳じゃ無い。寧ろ今では申し訳ない事をしたと思っているよ。あんな風に自我が芽生えて……意思を持って文明を築き上げていったんだからね」
「もう……良いです」
感情を失ったように声を小さくして、ケインは座り込んだ。
「ケイン、君の祖先がクローンってだけで、君本人はクローン人間じゃ無いんだよ?」
「そういう問題じゃ……ないです」
「そう……なら話を続けるよ?」
「どうぞご勝手に」
「それじゃあ……どこまで言ったっけ?」
「惑星ジムダを作ったところでしょ」
「ああ、そうだ。まあこのようにしてアタシ達はあの星を作った訳で、ひとまずアタシ達の物語は幕を下ろすんだ」
「………」
「でもね、つい500年ほど前に……システムに異常が起きたんだ」
「シス……テム?」
「アタシが作った条件を満たせば自動でスキルをこの世界の人間に付与するシステムさ。元々概念的なものだったけど、今は明確に星の形をしてる」
「それに何かあったんですか」
相変わらず暗い顔で素っ気ない返事をするケインであったが、それを気にする鈴木でもなかった。
「システムが自我を持ち始めた」
「っ!?」
「かなり不味いよ。システムを作った目的はスキルの付与だった訳だけど、あれは結構強く設定してるからね。並の人間どころか、勇者や魔王のスキルを持った者でも倒せない」
「今の所暴走でもしてるんですか?」
「いいや、……だが、その兆候は見せ始めてる。良いかい?魔王という仕組みを作ったのは亜神を育てる為、そしてアタシ達が亜神を欲したのは全部、システムを倒す為だったんだ」
「自分で倒せば良いでしょう?その素敵な力で」
「それがね……アタシの力のデメリットでさ、一度作った物はアタシには壊せないんだよ。ルーナは出来るかもしれないけど、どのみち彼女1人だと難しい。だからあの星の人間に勇者になってもらい、強い人間を引き込みたかったんだ」
「僕達に声をかけなかった理由って……」
「えーっと…それは、アスタルテ達がアタシに反逆しようとしてたから、上手くその計画を使おうと思ってさ。アスタルテが君に勝ったら君は子供を作って、更にエルナの子供と君の子供の間にできた子を戦わせる予定だったんだろ?それならたしかに凄まじい力を持った人間が生まれるかもしれないから、その子の力を利用してシステムを倒そうと思ったんだ。君達が勝ったら……まあ亜神を相手にする訳だから良い勝負になるかなって」
「考え無しですね。馬鹿ですか?」
「君さっきからどんどん辛辣になるね……、まあ良いや、で実際に戦わせた訳だけど、正直あれは君にとって大した経験にならないだろうと判断したんだ」
「実力差ですか?」
「その通り。アスタルテ達は強かったけど、君の経験値にはさしてならなさそうだったし、仮にアスタルテ達が勝ってもその間にできる子供はアスタルテの血が混じる分君より弱くなると考えた。だから別の手段を取る事にした」
「それで直接頼みに来たと」
「まあ端的にいえばね……でも今の君ではシステムには勝てないと思うからまずは修行を……」
「お断りです。自業自得でしょう。勝手に星を作って、勝手にシステムを作って、勝手に暴走を始めた……」
「おいおい、君達の星もタダじゃ済まないかもしれないんだぜ?だってアレは世界中の人間を滅ぼすのが目的なんだから」
「……」
ケインは立ち上がって部屋を出ると何処かへ行ってしまった。
「はぁっ……まあ、流石に今のはアタシが悪いか」
一応呼び戻しにいってみたが、既にケインは近くにはいなかった。




