外伝21話 取引
「亜神……スクリット?」
「そうだ。今後はその名前で呼んで頂こう」
「……それで、お前は何者だ?」
「全て済んだら教えてやろう。兎も角今は勇者エルナを渡せ」
「嫌だ。お前にエルナを渡して無事に帰ってくる保証がない」
エルファトクレスが腰の剣に手を当てて直ぐにでも戦闘体制に入ろうとする。
「仕方があるまい……ならば力尽くだ」
スクリットは自分の隣に黒い靄を作り出すと、その中から小さな木の棒を取り出した。それを合図にクリフ以外の全員が武器を取るが、スクリットは木の棒を構えているだけだ。
「…‥何のつもりだ?」
「無論魔法だよ。その為の杖だ」
この世界において、魔法は戦闘の補助的な立ち位置にいる。攻撃魔法だけで戦闘を成立せる魔法使いも勿論いるが、それは冒険者レベルの話であってケインやエルナ、ガルド等の高レベルな者達にとっては魔法は当たりにくく、一撃の威力は剣撃と大差ない為メインで使うことは無い。故に、剣に魔法を上乗せしたり、中遠距離の牽制に使うなど、用途が補助的になってくるのだ。
「魔法だけじゃ僕たちは倒せないぞ!」
クウガが『魔鎧』を再び発動し、一瞬で目の前に移動し切り裂いた。
「クックックッ……効かんなぁ」
「なっ、何故!?」
どうやら、クウガが切り裂いたと思ったのは黒い靄で、剣はスクリットに届いていなかったようだ。
「この靄は一体……」
「ふん、種明かしなんぞしてやらんが、貴様にこの靄は破れぬ。諦めてエルナを渡せ」
「誰が……」
そう言いかけたエルファトクレスに向けて、スクリットはダークレイを放った。そのあまりの速さにエルファトクレスの反射神経を持ってしても避けきれず、急所に当たってしまった。
エルファトクレスは攻撃力だけでなく高い防御力もある。余程のことでない限り魔法一発で終わるような事はない…‥はずだった。
ダークレイはエルファトクレスの鎧を最も簡単に壊して、さらにその肉体をも貫通していったのだ。
「お師匠!」
「グハッ……エル…ナ」
倒れ込むエルファトクレスを助ける為にエルナは走り出すが、その行く手をスクリットが阻んだ。
「おっと、行かせると思ったか?」
「スクリット!お前を許さない!」
エルナは現時点の最高火力の魔法、フレアバーストヴェノーヴァを剣に込めて放つ。この技は四天王のネドリア相手に初めて放った技で、結局通用しなかった訳だが、あの時とはレベルが違う。ケインが地球に行った後も鍛錬を続けてきたエルナの今の火力なら、あのガルドにもダメージを与えられるだろう。
一瞬の隙に攻撃されてしまったスクリットだが、何とその剣を素手で受け止めてしまった。
「そん……な」
「取引だ。私も君たちを殺したい訳ではない。だが、そうしなければ君を無傷で連れ帰る事など不可能だろう。あの女は普通ならもう助からんだろうが、エルナ、お前の回復技なら助かるのだろう?このままだと師匠が死ぬ。助けたければ私についてこい」
エルナの魔法、ガーデンライフは死者をも蘇生させることが可能……しかし、その成功確率は死んでから時間が経つほどに低くなっていく。勝てるとも思えない相手とやり合って、その間にエルファトクレスが死んでしまったら……
「くっ……分かりました。条件を飲みましょう。だから師匠を治させてください」
「よし。取引成立だ」
「ガーデンライフ!」
その魔法で、死にかけだったエルファトクレスの身体は嘘のように元通りになっていった。
「では、次は私の約束を守ってもらうぞ」
「はい」
スクリットはエルナを抱き抱えると何処かへ瞬間移動してしまった。
残されたクウガとエルファトクレフはただ悔やむし無かった。
しかし、クリフだけは何か決意めいた顔で、何処かへ向かって行ったのだった。
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