外伝10話 デジャブ
「ねぇ……恭弥くん。私、恭弥くんのことが……」
彼女、ケインはそう言って僕の上に乗ってきた。
そっと手を胸の上に乗せて顔を近づけてくる。
そんな彼女に僕は抗うことなくじっと見つめていた。
「恭弥…恭弥……恭弥!!!」
「うわぁ!」
僕は耳元で大声で自分の名前を叫ばれてベットから飛び起きた。
「恭弥!学校遅れるよー。朝ご飯と着替え用意しておいたからさっさと服着て食卓来い!」
「えっ、あぁ…うん」
なんだ夢か……
リアリティのない夢を見てしまった。
……でももうちょっと見てたかったな。
ふと時計を見てみる。すると今の時間は8時10分。うちの高校は8時30分からホームルームだから……
「うわぁ!遅刻だ遅刻だ!なんで起こしてくれなかったのさ!」
ここから学校まで、電車に乗っても1時間近くかかる。
こんな時間に起きてちゃとても間に合わない。
するとケインが起こり気味に反論してきた。
「何っかいも起こしたわ!ほら、せめてパンだけでも食べちゃって……」
「そんなの食ってる時間ない……いや、どうせ今から焦っても5分や10分変わらないか」
もう1時間の遅刻が約束された身だ。ここでご飯を食べた所で変わらないな。
というわけで朝ご飯はしっかり食べる事にした。
家に田中さんとケインが住み着いてから3ヶ月が経とうとしている。
その間、田中さんはケインの教育(地球の常識)をしていた。
ケインは家事……偶に魔物が現れると退治してくれている。
結局あの魔物達が何なのかは分からずじまいだ。安全の為にここら一帯の学校は何処も休校になっていたのだ。
だが、魔物は意外と弱い。
初日に見たドラゴンやキマイラなんかは他では出ておらず、基本的にはゴブリンやスライム……強くても精々ウルフくらいだ。
ケイン曰く、「ウルフなら恭弥でも倒せるくらい」らしい。
政府はつい先日まで緊急事態宣言を発令していたが、原因も分からず、幸い被害は今の所軽微な為、魔術を教える学校は今日より登校が開始したのだ。
「で、学校何時に始まるの?」
ケインが聞いてくる。そういえば知らなかったみたいだな。
「8時半」
「えっ!あと10分しかないんじゃん。学校までどれくらいかかる?」
「大体1時間弱」
「完全に遅刻じゃねえか」
ケインは呆れた顔をしていた。
少し考えたような素振りを見せると立ち上がって言った。
「学校の方角と距離は?」
「?……ここから北東に15、6キロかな?」
「了解。さっさと支度しな」
ケインは何を言っているのだろうか?
ともかく俺は、部屋から鞄を持ってきた。
「えっ、もしかして何か間に合わせる方法があるの?空を飛ぶとか?」
「うん、まぁ空を飛ぶわけじゃないけど捕まって」
「……?」
言われた通りにケインの手を握る。
「縮地!」
すると、一瞬にしてリビングから学校前まで移動していた。
「えっ……うそ?これって瞬間移動?ケインってこんな事まで出来るの?」
「まぁ、厳密にいえば違うんだけどね。明日からはちゃんと早起きしなさいよ。勉強頑張ってね」
「あっ、うん。ありがとう」
ケインが再び家に戻ろうとしたその時、
「おっ、神宮寺じゃねえか!おーい」
なんと後ろから来た高宮が話しかけてきたのだ。
「なっ!高宮!?」
「おはよ。休校明けは生活リズム狂っててだるいよなぁ……って何その美少女!?」
最悪だ。ケインが高宮に見つかってしまった。




