バホちゃん
重村真由美は、俗にいうイケてない女子高生だった。
外見は、ちょうど女芸人の○○と○○を足して2で割ったような顔で、おまけにブクブクと太っていた。
さらに、頭の出来に至っては、未だに九九もまともに言えないという有様だった。
そんな真由美だったが、合コンにはよく誘われていた。
誘う人間は大体決まっていて、彼女たちは皆、真由美より《《少しだけ》》ランクが高かった。
彼女たちは真由美を連れていくことで、少しでも自分たちを良く見せようとしていた。
真由美自身も、頭が悪いなりにそれには気付いていて、その場ではいつも引き立て役に回ることを心掛け、自己紹介の時にはいつも自虐ネタを披露していた。
「重村真由美でーす。私はよく人からバカだのアホだの言われまーす。なので、今から私のことを、バカのバとアホのホをとって『バホちゃん』と呼んでくださーい。ほらっ、私って顔も体も丸っこいから、バレーボールのマスコットキャラクターの〈バボちゃん〉と良く似てるでしょ? だから、一石二鳥というか…… うーん、うまく言えないけど、AKBに対する乃木坂みたいな感じというか…… まあ、〈バボちゃん〉の公式ライバルとでも思ってくださーい」
そんな真由美のあいさつに大概の男性陣は引いていたが、ある日の合コンで彼女に好印象を持った男性が現れた。
名前は丸小高至。
彼は県内でも有数の進学校に通っており、おまけにスポーツ万能だった。
さらに、ルックスに至っては、ジャニーズの○○にそっくりという超イケメンだった。
無論、女子たちは皆、高至を狙っていたため、真由美が気に入られたことを快く思っていなかった。
「高至君、この子はやめといた方がいいよ。さっきの自己紹介も、ウケ狙いでやったと思ってるかもしれないけど、この子の場合はマジだから」
「えっ! じゃあ、もしかして天然ってこと? いやあ、この時代にこんな子がいるなんて貴重だなあ」
「いやいや、高至君はこの子のこと、まだよく知らないからそう思うかもしれないけど、毎日一緒にいると、こっちは大変なんだから」
「なんで? 真由美ちゃんと一緒にいたら、毎日退屈しなさそうじゃん」
結局、高至は女子たちの妨害に臆することなく、その場で真由美とのデートを取り付けた。
そして、デート当日。約束の10分前に待ち合わせ場所に着いた高至は、少し緊張した面持ちで真由美の到着を待っていた。
すると、約束の時間に15分遅れて、ようやく真由美が姿を現した。
「ごめんなさい! 浴衣を着るのに手間取っちゃって」
「ああ、そうなんだ。気にしなくていいよ。俺も今来たところだから」
「なんだ、そうだったんだ。ちぇっ、走って損しちゃった」
鈍感な真由美は、高至が気を使ってウソを言ったことに、まったく気付いていなかった。
「わあ! やっぱり人が多いね。わたし、お祭りに来るのって、小学生の時以来なんだ」
「えっ、そうなの? じゃあ、祭りとかあまり好きじゃないんだ?」
「そういうわけじゃないんだけど、中学に入ってから、誰にも誘われなくなったんだ。なんかわたしと一緒にいると、みんな恥ずかしいみたいで」
「……ふーん、そうだったんだ」
真由美の思わぬカミングアウトに、高至は真由美を誘ったことを早くも後悔し始めていた。
その後、二人が金魚すくいに興じていると、二人と同年代くらいの女性が声を掛けてきた。
「あっ、高至じゃん! 久しぶりー」
「おお、弥生か! ほんと久しぶりだな」
声を掛けてきたのは高至の元カノで、名前は中道弥生。
ちなみに、彼女は九九の七の段を苦手としていた。
「半年ぶりくらいじゃない? それより、隣の子はだれ? もしかして彼女とか」
「えっ、……まあ、そんな感じかな。紹介するよ。この子は重村真由美ちゃん」
「どーもー、重村真由美でーす。ニックネームは『バホちゃん』でーす」
「『バホちゃん』って、どういう意味?」
真由美はその経緯を説明した。
「ふーん、そうなんだ。あっ、自己紹介がまだだったわね。わたしの名前は中道弥生。高至の元カノよ。じゃあ、わたしは『バホちゃん』に対抗して、アホのアとバカのカをとって『アカちゃん』にしよーっと。今日からわたしは『アカちゃん』よ。オギャー! オギャー!」
弥生が高至の元カノと聞いて、闘争本能に火が点いた真由美は、「バホッ! バホッ! バホッ!」と叫びながら、高至を置いたまま一人で歩き出した。
弥生も負けじと、「オギャー! オギャー!」と叫びながら真由美を追い掛けていき、二人の行く先はまるで【モーゼの十戒】のように、きれいに人波が二つに分かれていた。