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シーロとこちらの恋愛事情  作者: 夕月萌留
7/11

本当の

 翌日の朝、いつものように登校したヨミは下駄箱で一通のメモを見つけた。そのメモにはこう書かれてあった。


  今日の放課後、学校の屋上に来て下さい。

                     三崎和泉



 その日のヨミは彼にしては珍しくずっと考えごとをしていた。昨日本屋であった出来事を考えて反省し、今朝のメモのことを思い出して和泉の様子を伺う。そんなことを何度も繰り返しているうちにいつの間にか放課後を迎えていた。ヨミは和泉が教室を出るのを確認してから、その後を追いかけるようにして自分も教室を出た。屋上は本来立ち入り禁止でいつも扉は施錠されているが、恐らく何らかの理由をつけて鍵を借りたのだろう。和泉は学級委員でもあり、二年生にして写真部の部長でもあったので、どちらかの立場を利用すれば何とか理由をつけて鍵を借りることも可能なはずだ。ただし、和泉がどんな苦労をして屋上の鍵を入手していたにしろ、そんな裏事情にまでヨミの頭が回るはずがない。彼はただ何も考えず和泉に呼び出されるままに屋上に向かうだけだ。ヨミが来たときいつも施錠されているはずの扉の鍵は開いていた。外に出ると屋上の端の落下防止用フェンスの前に和泉が立っていた。

「黄金崎君、わざわざ呼び出してごめんなさい。昨日のこと誤りたくて……。私、突然のことだったから、びっくりしちゃって。もしかして、嫌な気持ちにさせたんじゃないかと思って。だから、ちゃんと謝ります。ごめんなさいっ」

 そう言って和泉は深々と頭を下げた。

「いや、三崎さんが謝ることなんてないよ。オレがわりーんだ。オレのほうこそごめん!」

 謝罪の言葉とともにヨミも和泉と同じように頭を下げる。少しの間を置いて、お互いに頭を上げて相手のほうを見た。二人の視線が正面からぶつかり、今度はお互いに視線を逸らす。訪れた沈黙――それを破ったのは和泉のほうだった。

「昨日……あのとき黄金崎君は何かを言おうとしてたみたいだけど、何を言おうとしたの?」

「三崎さんはオレのことが好きなのか――って言おうとした」

「はは、何それ? おっかしい。普通いきなりそんなこと聞かないよ?」

「そーなのか?」

「そうだよ。だって、私たち全然お喋りしたことないでしょ? なのに……ほんとおかしいよ」

「ごめん、オレ頭悪いから、そーゆのよくわかんねーんだ」

「でも、なんで私が黄金崎君のこと好きだと思ったの? そんなこと誰にも話したことないのに」

「それは、その、いろいろとあって」

「まぁ、いいわ。私が黄金崎君のこと好きなのは確かだし、否定したりしないよ」

「じゃあ、なんで――」

「なんであのとき黄金崎君をフッたのか――そう聞きたいんでしょ? それは黄金崎君が私のことを好きじゃないからだよ。もっと言えば、黄金崎君の好きは恋愛対象としての好きとは違うってこと」

 和泉の言葉を聞いたヨミはその意味するところを理解できずに首を傾げている。ヨミは人を嫌いになることを知らない人間だ。『嫌い』の意味を知らない人間に『好き』の本当の意味を知ることは難しい。

「私が黄金崎君のことを好きになったきっかけはね、小学生のときにクラスの男子にいじめられてた私を黄金崎君が助けてくれたことなの。黄金崎くんと私は小学校でも中学校でも同じクラスだった。でも、全然話したことはなくて、そんなこと黄金崎君は覚えていないでしょ?」

 和泉の言う通り、ヨミの記憶の中に今語られたことは一つも残っていない。そもそも、日常の中で起こるちょっとした出来事がヨミの記憶に残ることなど稀なのである。

「告白された時はすごく嬉しかったけど、だからと言って本当に好きになってもらったわけでもないのにお付き合いすることはできないわ」

「本当の好き? それはどうしたら分かるもんなんだ?」

「それは自分自身にしかわからないと思う。少なくともちょっと前の黄金崎君みたいに、色んな女の子に次々告白しているうちは本当の好きではないと思うな。本当の好きは告白するのにもすごく勇気がいることだし、フラれてすぐに立ち直れるようなものじゃないと思うから」

 ヨミには和泉の言うことがイマイチ理解できなかった。好きの程度なんて測ったことはない。

「そろそろ行きましょう。ここの鍵を返さなきゃいけない」

 屋上の出入口へ向かう和泉の後ろ姿を前にして、ヨミはもう一度眼鏡の機能を使ってみた。そこに表示される内容は昨日見たものと変わりない。しかし、和泉が自分のことを本当に好きであっても、それだけでは恋人にはなれないのだ。そのことはヨミにも理解できた。

「じゃあ、私は職員室に鍵を返しに行くから。今日はわざわざ時間をとってくれてありがとう」

 屋上を出て扉の鍵を閉めると、和泉はそう言ってヨミの前から立ち去った。ヨミは『本当の好き』というものについて考えながら自分のクラスに戻り、教科書やノートを鞄に詰め込み帰り支度をして学校を出た。

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