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シーロとこちらの恋愛事情  作者: 夕月萌留
6/11

好き?

 シーロの眼鏡が普通の眼鏡ではないことが判明してから早一ヶ月が過ぎた。驚くべきことにこの一ヶ月間、ヨミは誰にも告白をしていない。理由から眼鏡の機能を使わないよう釘を刺されたヨミだが、手近なところにこんな面白い道具があるというのに、好奇心旺盛な彼が使わずにいられるわけがない。というわけで、忠告を無視して眼鏡の機能を使ったヨミは、そのおかげで女子のほとんどが自分に対して恋愛感情を抱いていないことを知った。最初にこの眼鏡の機能を使ったあの時、矢の刺さったハートは相手が恋愛感情を持っている証だとシーロから聞かされた。あれ以来、気になる女子が現れた時に眼鏡を使って確認してみたが、誰一人としてその表示が出ている生徒はいなかった。素直なヨミはシーロの言う事を信じて成功するはずのない告白をしないようになった。

「はぁ~、暇だなぁ」

 理由が生徒会の役員になってからというもの、ヨミは毎日一人で下校するようになった。理由もヨミと帰れなくなることを考えて立候補を拒否していたが、クラスメイトの強引な推薦と生徒会の顧問を務めている担任からの要請もあって立候補するに至った。せっかくの女子高生ライフを生徒会に費やすことになって理由は心底残念がった。耕也はサッカー部、双葉は弓道部の練習が本格的になってきて、ヨミと絡む機会が激減した。そんなわけでヨミはぼっち状態になりつつある。家に帰ればシーロもいるが、シーロはいつも一人でぼーっとしているだけで、外に出たり自分から話しかけてきたりはしない。

「たまにはどこかに寄ってくかぁ」

 今までは告白というイベントがヨミの毎日に彩りを添えていたが、それがなくなったとたんに、ヨミの日常は代わり映えのしない無色透明な日々に変わってしまった。彼もそんな状況に飽き飽きしていたのだろう、下校時に寄り道など滅多にしないのだが、今日に限ってたまたまそんな気分になった。とは言え、暇をつぶせる場所など限られている。めぼしい場所といえば自宅の最寄りのバス停から少し歩いたところにある本屋くらいなものだ。特に見たい本があったわけでもないが、ヨミはとりあえずその本屋へ行くことにした。

 『永文堂(えいぶんどう)書店』――ここは地元の人間なら知らない人はいない老舗の書店だ。本が売れない時代、しかも百貨店や量販店に入居するチェーン店やネット通販で本を買う人が多い時代にあって、未だに営業を続けていられるのは地域に根付いた老舗書店としての信用があるからだろう。とはいえ、経営が苦しいのは間違いのないところで、いつまで続けていられるかは不透明だ。ヨミにしてもここに来るのは随分久しぶりだ。本は読まないし、コミックを買うこともなくなった。漫画雑誌やゲーム雑誌を読むことはあるが、近くのコンビニで買い物をするときに立ち読みをしたり、食べ物や飲み物を買うときに一緒に購入する。だから、わざわざバス停から降りて自宅の反対側にある本屋にまで足を向ける必然性がない。

 どこか懐かしさを感じる入口から中へ入る。店内のレイアウトも昔から全く変わっていない。

アルバイトだろうか、若い店員がレジを任されている。昔からいる店主とおぼしき人も変わらずそこで働いていた。せっせと本の整理をやっている彼の髪はやや白髪交じりになっていて時の経過を感じさせた。店の奥のほうにあるコミックや文庫を置いているコーナーへ移動する。歩きながら店内を見渡してみて、ヨミは『こんなに狭かったんだ』と思った。店内にお客は全然いなかった。店の一番奥のほうにある少女漫画のコーナーに一人学生がいるだけだ。その子の近くまで来たとき、ヨミは彼女が自分の知ってる女の子であることに気が付いた。

 三崎(みさき)和泉(いずみ)(16)、二年生になってヨミのクラスメイトになった子だ。そして、ヨミは一年生のときに一度和泉に告白してフラれたことがある。ちなみにヨミが和泉に惹かれた理由はその名前だ。三崎の『崎』と黄金崎の『崎』、和泉の『泉』と流泉の『泉』、苗字と名前が一文字ずつ同じということから彼女のことを好きになったらしい。俗に言う『運命を感じた』というやつであろうか。そんな理由で惚れるなど甚だ馬鹿らしい限りである。しかし、それがヨミという男だ。

 和泉は少女漫画の立ち読みに夢中になっていて、ヨミのことなど全く気づいていない。ヨミはちょっとした好奇心から何の気なしに眼鏡の起動スイッチを押した。自分が一度フラれた相手――当時は何も考えずに告白して撃沈したが、今になって彼女のことをもっと知りたくなった。だからと言って、わざわざ直接コミュニケーションをとってまで知ろうとするほど、ヨミは頭の回る人間ではない。だが、この不思議な眼鏡があればただボタンを押すだけで、普通は知り得ない彼女の情報を見ることができる。それはとても衝動的な――あるいは本能的な行動だった。そして、彼が目にしたものは理由を視た時と同じ矢の突き刺さったハートのイメージだった。

「あっ、あの、三崎さん!」

 それを視たヨミは反射的に和泉に声をかけていた。そして、これまた反射的に自分のほうを向いた和泉の両肩をその大きな両手で『がしっ』と掴んだ。

「きゃっ!?」

 隣に金髪眼鏡の大男が突然現れて両肩をつかまれようものなら、誰だってびっくりするだろう。あまりの出来事に和泉はパニックに陥り、手にしていた本を置いて店を飛び出して行った。考えなしのヨミでも、今のが自分の過ちであったことにはさすがに気が付いた。珍しく落ち込んだ様子のヨミはその後何をするでもなく店を出て、トボトボと帰宅の途についたのだった。

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