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シーロとこちらの恋愛事情  作者: 夕月萌留
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人生何度目かの

 まだ雪の残る三月上旬。ここ北鷹(ほくよう)学園は記念すべき卒業式の日を迎えていた。午前10時に開始された式は滞りなく終わり、全校生徒が下校し始めた頃、学校の校門付近で卒業生を待つある一人の男子高校生がいた。

「高山先輩、まだかなぁ。まさか、もう帰っちゃったってこと、ねーよな?」

 彼の名は黄金崎(こがねざき)流泉(りゆうせん)(16)、もうすぐ高校二年生になる男子高校生だ。『ヨミ』というあだ名で呼ばれている。性格は大雑把、あまり考えない男でとにかく惚れやすい。これまでに何度も女子に告白をしているが、一度も成功したことのない残念な男だ。

「ヨミ、大丈夫だって。卒業式サボってここでずっと張り込んでたんだ。絶対来るから心配すんな」

 ヨミの背後にいるこの男子は柳沢(やなぎざわ)耕也(こうや)(16)、ヨミの幼馴染であり、親友であり、悪友でもある。ヨミというあだ名の名付け親で、黄金崎の『黄』と流泉の『泉』をとって黄泉(ヨミ)と名づけたのは彼だ。耕也自身は同級生から『ヤナ』と呼ばれている。ちなみに『ヤナギザワ』と濁るのが苗字の正しい読み方だが、なかなか周囲に浸透せず、殆どの人が『ヤナギサワ』だと思っている。本日、ヨミに卒業式をサボってここで張っているようにアドバイスしたのも耕也だ。なのに、自分自身はしっかり卒業式に出席している。ヨミにとっての真の悪友と言って差し支えないだろう。

「――ったく、やめといたほうがいいんじゃねーのか? またいつものパターンでフラれるに決まってんだろ」

 耕也の横でダルそうにしているこの女子は浅井(あさい)双葉(ふたば)(16)、勝気で男勝りな性格で女子からはかなり頼りにされている存在だ。女子と男子の間でトラブルが起こった際には、必ず双葉が矢面に立つ。運動能力も高く、小学校の頃に空手、柔道、剣道、合気道などの武道を習っていたおかげで、男子に負けないくらい――いや、そんじょそこらの男子では到底太刀打ちできないほどの腕っ節を備えている。ヨミ、耕也、双葉の三人は幼稚園時分からの付き合いで、三人とも幼馴染と言えるが、双葉は二人との関係をいつも『腐れ縁』と表現している。

「いやいや、今回は間違いないぞ。高山先輩はヨミに絶対惚れてる」

「やっぱ、そーだよな。そー思うよなぁ? はぁ~、先輩早く来ないかなぁ」

「アタシは知らねーぞ。また、いつもみたいにフラれたって、慰めてやったりしねーからな」

 双葉の懸念の声はヨミに全く届いていない。彼の耳元で反響し続ける耕也の悪魔のささやきが、全ての雑音をシャットアウトしているのだ。全校生徒の中で一番惚れっぽい男がヨミであるのは間違いのないところ。そして、色んな女子に告白してフラれ続けるという可愛そうな境遇にあるのは、耕也の影響によるところが大きい。

「おっ、ヨミ、あそこ見ろよ。高山先輩だ。ほら、だから言ったろ。絶対大丈夫だって。俺の言うことに間違いなんて無いんだからよ」

 ヨミに無謀な告白をけしかけて、何度も撃沈させている男がよく言ったものである。

「おー、さっすが耕也だ。お前の言うこと信じてよかったぁ」

 この男もこの男だ。何度も耕也に騙されて失敗を積み重ねてきていると言うのに、過去の出来事などすぐに忘れてしまうのだ。普段から何も考えないで行動するから、記憶にも残らないのだろう。

「ヨミ、早く行って来い! 先輩、帰っちまうぞ」

「おー、行って来んぞ!」

 ヨミは三年生の高山(たかやま)紗智(さち)の姿をみつけると、他には目もくれず彼女のいる場所に向かって真っ直ぐ歩いて行った。

 この男、とにかく目立つ。身長は180cmを超える長身、加えてかなりの猫背、髪は金髪で肩まである髪を後ろで縛っている。さらに、一昔前であればガリ勉クンと評されたであろう黒縁眼鏡をかけていて、極めつけはその眼鏡の奥に覗く『泣く子ももっと泣き出す』切れ長で鋭い両目だ。彼は部活にも生徒会にも入っていないし、特段成績がいいわけでもないのに、校内では知らない人がいないくらいの有名人である。これは彼の奇抜な容姿が成し得たものだ。こんな容姿をしたヨミであるが、ケンカはからっきし弱い。入学してすぐの頃は上級生に目を付けられたものだが、絡んでくる輩は双葉によってことごとく撃退されていった。その噂は瞬く間に全校生徒へ広まり、双葉を従えているヨミはもっと強いはずだという論拠でもって、ヨミには悪魔もひれ伏すほど恐ろしくケンカが強いという事実無根の評判が立ってしまっている。

 そんないきさつもあって、彼はただ歩いているだけで周りからの注目を浴びてしまう。この場においてもそれは変わらない。そもそも校門の前にヨミが立っているというだけでかなり注目を浴びるが、そんな彼が玄関へ向かって歩き出したということで、その進行方向にいる生徒たちはささっとその場から散っていった。そして、いつしかヨミの進む先には高山紗智しかいない状況になり、ヨミが彼女のもとへ行こうとしていることに周囲も気づき、辺りは騒然となった。

 ヨミが様々な女子生徒に告白してフラれていることについては、全校生徒にとっても周知の事実だ。現場の様子を見守っている生徒の誰もが、その後の展開を予測していた。

「高山先輩!! 好きです!! オレと付き合ってください!!!」

 ド直球。そして何の躊躇(ためら)いもない。加えて言うなら、この男が告白のセリフを工夫するはずもない――何も考えていないのだから。それ(ゆえ)、現場の様子を見守っていた生徒はヨミのセリフまでをも正確に予測していた。

 告白された相手は大抵引きつった表情で暫く唖然とする。――が、少しの間を置いて我へと返り、女子の間で伝わっているヨミの告白に関する噂を思い出す。ヨミは見た目がかなり奇抜で怖い印象はあるが、告白を断ったからといって何かをされることはない。安心して断りなさいというアドバイスがその噂には付随していた。

「私、キミのこと知らないし。怖い人は苦手です。それにこんなところで、とても迷惑です!」

    

 

    〝迷惑です!〟

     〝迷惑です!〟

      〝迷惑です!〟

       〝迷惑です!〟

        〝迷惑です!〟

         〝迷惑です!〟

          〝迷惑です!

           〝迷惑です!

            〝迷惑です!

             〝迷惑です!



 ものの見事にフラれ呆然と立ち尽くすヨミ。彼の頭の中で拒絶の言葉が幾度も反復する。そんな彼のいつもと変わらない結末を見て、幼馴染の二人が駆け寄って来た。

「だから、アタシ言ったじゃん。やめといたほうがいいって。オマエもそろそろ学習しろよ」

「ヨミ、残念だったなぁ。まっ、こんなときもあるって。そうだな、今日はタイミングが悪かったんだ。告白ってのはタイミングが大事だからな。高山さんの準備が出来てなかったんだよ。準備が出来て無かったら誰がコクってもうまくいかねぇもんなんだ。だから、ヨミが嫌われてるってわけじゃねぇから安心しろ」

「ほんとか? でも、めーわくって言われたぞ」

「ヨミ、俺を信じろ。俺の言うとおりにして失敗したがことあるか? 無いだろ? 大丈夫だって。さぁ、早く帰って反省会しようぜ!」

「そーだな。耕也の言うことなら間違いない。じゃあ、早く帰るか!」

「ヨミ、オマエってほんと乗せられやすいって言うのか、バカって言うのか」

 こんなフラれ方をすれば普通はしばらく落ち込んだり、なかなか立ち直れなかったりするものである。だが、この男に失恋の痛手というものは存在しない。だからこそ、こう何度も告白してはフラれての繰り返しを続けていられるのである。

 三人はさっきの出来事もどこへやら、何事もなかったかのようにいつも通り校門前のバス停からバスに乗って帰っていった。その一部始終を見届けた他の生徒たちも同じく何事もなかったかのように家路についたのであった。

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