第五十九話『決闘の終わり』
……頭の後ろに、柔らかい感触があった。
目を開けると、そこにはユリアの顔があり、どうやら自分は膝枕をされているのだと理解する。
戦闘後の疲れがあり、照れるなんて事はできなかった。元いた世界ではそれなりに憧れた『女子の膝枕』なんて事象はどうでもよく、それより問題なのは決闘の行方だ。勝ったのか、負けたのか。
「……おはよ、シュウヤ」
「おはよう、ユリア」
そんな事を言いつつ、修也は起き上がった。疲労感が凄い。ユリアに膝枕をされ、意識が無かったことから寝ていたのだと分かったが、全く疲れが取れていないのはどういうことだ。
周りを見回すと、そこら中に瓦礫が転がっていた。そしてその瓦礫の中でも大きな物の上には、リリー、ヘリヤ、テラル、ゾーン、キサイが立っている。
修也の視線に気づいたリリーが、こちらに話しかけてきた。
「大丈夫?」
「大丈夫じゃない。疲れが全く取れてないんだ」
そう言った修也は、両手を地面に付いて立ち上がろうとした。ここである事に気づく。右手に錬剣クルシュを持っていたのだ。意識が無い状態でも、なぜか武器だけは離さなかったらしい。
錬剣を地面に付いて、杖代わりにした修也は、そのまま立ち上がった。ふらついた所を、ユリアが支えてくれる。
「ありがとな」
「いいよ、別に」
取り敢えず、今の状況は確認した。あの後、サミナの迷宮と銘打った城は、修也とカミュの攻撃の余波、というか激突で倒壊してしまったようだ。
迷宮に入った時には夜だったのに、いつの間にか朝になっている。迷宮の特性による物だろう。外と中では時間の流れが違う。
「いや、凄かったぜ。圧巻だったよ。伝説の魔法使いと、土壇場で覚醒した闘気使いの戦いは」
そう言ったのはテラルだった。その手には槍を持っていて、地面に突き立てている。
「とにかく、お疲れ様だな。後シュウヤ、万全の状態になったら私とも決闘をしよう」
そう言ったのはヘリヤだ。決闘なんて受けたくもないが、ヘリヤがそう言うのなら仕方ない。万全の状態になったら決闘を受けることにしようか。
「あなた、迷宮を壊してまでカミュを殺すなんて、とんでもない事をしたわね。ロクターンの五大迷宮が、ロクターンの四大迷宮になっちゃたし」
リリーはそう言ってため息をついた。彼女の心情はなんとなく察せられる。ロクターンの五大迷宮は、そこに存在する驚異であるのと同時に、観光資源的な物でもあったのだから。
というか、ちょっと待て。
「……僕がカミュを殺したって?」
「ええ。貴方が殺したというより、迷宮の倒壊に巻き込まれて死んだって言ったほうがいいかしら。あんな魔法を使ってたんだから、他の魔法なんて……ましてや自分の身を守る魔法なんて使えなかったでしょうね」
少し納得がいった。闘気を使った技を放ったとはいえ、不老不死とかいう反則を自分が打ち破ったとは、どうしても思えなかったからである。
気づかなかったが、今は倒壊した迷宮の瓦礫の上にいるのだ。
「…………」
決闘は、どちらかが死ぬまで続けられる。それは始める前に魔法契約書に書かされたので十分承知しているが、それと同時に、決闘の勝敗で賭けていた物はどうなるのか。
――すなわち、ユリアとの結婚の権利と、不老不死の力の譲渡。
「……えーっと、決闘に勝利したんだよな? 俺は」
「うん」
すぐ隣にいるユリアはそう返事をした。
「じゃあ、不老不死の力と、その……お前との結婚の権利だっけ? それは俺が手に入れたわけだよな?」
「不老不死の力はよく分からないけど、魔法契約は絶対の物だからね。取り敢えず……」
ユリアは修也に顔を近づけて、囁く。
「――これから宜しく。私の旦那様」
★★★
その後、ある事が判明した。それは不老不死の力が、修也に宿っているのだということ。
修也はある時、サミナの迷宮の瓦礫に躓いて頭を打った。だが、その傷はすぐに癒えて元に戻ったのだ。どうやら信じられない事に、カミュの不老不死が修也に受け継がれたらしい。
これは、魔法契約が絶対だということの証明でもあった。
「…………」
今、修也たちはロクターン公告までの道のりを歩いていた。七人の間に会話は無い。色々あって疲れているのだろう。それは修也もまた同じで、錬剣以外の荷物は他の奴に持ってもらっている。
隣にはユリアがいて、横に並んで歩いている。先程の出来事があったからか、なぜかユリアの事を見ると妙に緊張していまう。
ユリアの事をよく見ると、普通ではありえないくらいの美人である事が分かる。長い白髪に青色の瞳、背は普通の少女のようで、その顔は人形のように整っている。こんなのが恐ろしく強いなんて誰が想像するだろうか。
空を飛び、髪の毛を操って物を切断し、洗脳だってお手の物なユリアと成り行きとはいえ結婚するなんて思いもしなかった。
修也の視線に気づいたのか、ユリアが話しかけてくる。
「どうしたの?」
「……いや、結婚するなんて信じられないな、と思って。ユリア、お前は俺なんかと結婚してもいいのか?」
人差し指を顎に当てて少し考え込んだ後、ユリアは言う。
「いいよ。別に愛してるって訳じゃなくて、友情を感じるだけだけど、シュウヤとなら別にいい。家族がほしいってずっと思ってたけど、お父さんやお母さんじゃなくて、まさかシュウヤとなんて思わなかったよ」
「……その、さ。結婚するって事は夫婦関係になる訳で……付いてくるのか? 俺に」
「当たり前でしょ? 夫婦なんだから。夫婦といってもシュウヤの認識だと、まだ私たちは友達なのかな?」
「当たり前だろ。急にそんな、結婚とか言われても……まだ出会って少ししか経ってないし、しかも愛してる訳でもないユリアと結婚なんて、普通考えられない。せめて友達だろ」
「そうだねぇ。じゃあ分かった。私とシュウヤが愛し合う事ができたなら、改めて結婚しよう。それまでは友達だよ」
「……分かった」
――そんな会話の後、二人の間に会話は無くなった。
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