第五十六話『結婚を賭けた殺し合い②』
魔法を斬って、斬って、斬って、斬り続けて。修也は進む。
「いい加減諦めたらどうだ!」
「うるせぇ! てめぇが吹っかけてきた決闘だろうが!」
取り敢えずまあ、劣勢である。
魔法を意識しすぎて、だんだんとカミュから離れていくのが問題だ。近づこうとしても、魔法の弾幕が襲ってきて迂闊に近寄れない。
軌道が読めない魔法に、そもそも迎撃できないような魔法も使っているので、どうしても攻めきれない。錬剣での斬撃で魔法を斬る事ができるといっても、単純な規模が大きければ、どう足掻いても斬る事ができないのだ。
巨岩が回転しながらこちらに迫る。それはいわば巨大な銃弾のようなもので、《魔力物質化》でも無いと切断できないだろう。
後退して、また避ける。後方で巨岩によって城の床が抉れる音がした。
城の壁に片手を付いて、また走る。今度は直線ではなく、カミュを中心に円を描くように走った。狙いが定まらないだろうと思っていたのだが……。
駄目だった。狙いはあくまでも正確で、氷の矢が何十本もこちらに向かって放たれる。
こちらを追ってくるように放たれる矢は、ほとんどが届いていないが、数本の矢がこちらに当たりそうになったので、それは錬剣で斬った。
一周目。まだカミュとの距離は遠い。
二周目に突入した直後、今度は溶岩が放たれる。魔法陣が火山だとすると、そこから岩石が放たれるイメージだ。噴火でも起こしたかと見間違うような勢いで、ドロリとした溶岩が向かってくる。
地面を蹴って、修也は跳んだ。そのまま壁を蹴り、走る。壁走りなんて初めてやったが、なぜか上手く行ってしまう。
下の床が赤くなっている。今降りたら大変なことになるだろう。疲れるが、壁を走り続けた。そのまま天井付近まで行き、下を見てみる。
すると、なぜか溶岩が消えていた。魔法だからか。
壁を蹴り、勢いよく着地する。その勢いを利用して、一気にカミュの近くに肉薄した修也は、錬剣を袈裟がけに振り下ろした。
だが、
「……結界か」
「ああ、そうだ」
カミュは、肩を結界で守っていた。ユリアに攻撃された時にも使っていた物で、その硬度は凄まじいものに違いない。
どう錬剣を押し込んでも、逆に反発して上手くカミュに当たらない。そして次の瞬間、突如発生した衝撃によって、修也は吹き飛ばされた。
ゴロゴロと地面を転がり、そして止まる。左手を地面に付いて力を込めると、勢いをつけて、再びカミュに向かって走りだす。
また魔法が飛んできた。それは何十本もの火の矢。視界を埋め尽くすほどの物量が修也に襲いかかってきた。
目だけを動かして、迎撃できそうな物を選んで、迎撃する。横に走って少しでも当たらないようにしながら、修也は錬剣を振るう。
何本か食らってしまった。左肩と右腕にそれぞれ二本。それらの魔法の矢は空気に溶けるように消えてしまった。矢が無くなり、修也は前に進む。
次にカミュが放ったのは風の刃。合計七本の刃が、瓦礫を切断しながらこちらに向かってくる。相当な威力があることが分かり、修也は唾を飲み込んだ。
錬剣に魔力を込めて、構える。遂にこちらに迫ってきた風の刃を、修也は迎撃した。
一本目は腕に衝撃を残して切断。二本目も同様に切断。三本目は先程までの二本とは違い、斜めに切断しようと迫る。
「ッ!」
ギリギリだが、何とか切断することができた。続いて五本目。これもまた絶妙な角度の斬撃で、それでも何とか迎撃に成功した。
六本目と七本目は、クロスに重なっていて、生半可な威力では無いことが容易に想像できた。やむなく錬剣を両手で持ち、上段に構えて、そのまま振り下ろす。
僅かな抵抗感と共に、風の刃を切断することができた。だが、更にキツい事が起きる。
風の刃に気を取られていたので気づかなかったが、カミュは更に多くの魔法陣を展開していた。
そこから放たれるのは魔力そのものを用いた弾丸。魔弾とでも言おうか。青白い魔弾は、刻一刻と修也に向かってくる。
「おおッ!」
手首のスナップを効かせて、修也は錬剣を振るった。魔弾を切断しながら前へ、前へ。修也の横を通り過ぎていった魔弾は、床に着弾して爆発してしまう。
もろに食らうと不味い。
「ッ!」
全部を斬るわけでもなく、ただやられるだけでもなく、致命傷になるであろう攻撃は避け、迎撃する。走って走って、何度も傷を負いながらも、カミュの目の前に踏み込むことができた。
カミュの近くに来たのは良いが、先程の光景が頭を過る。このまま攻撃しても、先程の二の舞いを食らうだけだ。ならばどうする。
そんな考えが脳裏に浮かんだ時、修也は錬剣でカミュの胸を突いた。だがそれすらも結界で阻まれて、反発して……。
「《魔力物質化》!」
今まで叫んだこともない、《魔力物質化》という事を言った瞬間、修也の中の魔力が錬剣に集まっていく。
バチバチッと音が鳴り、錬剣が青白く光った。
「何っ!」
錬剣から青白い光の剣が出現する。
「ふっ!」
錬剣を両手で持ち、カミュを守る結界に押し込んだ。磁石のS極とN極とが反発しあっているような感覚。力を込めて、魔力を込めて――ようやく結界が壊れた。
嫌な感触とともに、錬剣はカミュの胸を貫いた――のだが。
「……不老不死ね」
修也がそう呟いた時、カミュは口から血を吐いた。それでもなお笑っていられるのだから、カミュの精神力は恐ろしい。
修也が錬剣を更に押し込んでも、血を吐かせても、カミュは笑っている。
そのままいつものように、錬剣に込めた魔力を爆発させようと思った瞬間、修也の腹に妙な違和感を覚えた。
「相打ち、だな」
カミュがそう言った瞬間、修也の腹を灼熱が襲う。
なんと、カミュの腕が青白い光を放ちながら修也の腹を貫いていたのだ。
「……お……あ」
血を吐いて、修也は床に倒れ込んだ。
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