第八話『迷宮探索開始①』
やっと戦闘シーンが書けた……。
もうここからどんどん書いていこう。
――迷宮に入ると、中と外とが寸断されたような、異世界の更に異世界に迷い込んでしまったような、そんな奇妙な感覚に襲われた。
「…………」
念の為に、後ろを振り返る。
修也の他にいる探索者達がいるのが見えた。いきなり転移したとかそういうことが無くて、少しだけ安心した。
もう一度前を見てみると、そこには薄暗い洞窟だけがあった。奥からは得体の知れない鳴き声が聞こえる。おそらくモンスターの声だろう。
だが、今更ビビってはいられない。今日の探索には、色々なものがかかっているのだ。
思い切って、修也は迷宮の中を歩き始めた。
★★★
――名も無き迷宮、第一層。
その中は地上よりも明るかった。天井や床に生えている、光る苔が原因だ。修也の知識の中にはこんなものは無かった。ここはただの洞窟ではない。
コツコツコツと、修也のブーツが地面を踏みしめる音だけが洞窟内に響いている。途中まで修也と一緒に来た探索者達は、分かれ道で別れてしまった。修也は今一人だ。
この迷宮に地図はない。一応道は覚えているが、うろ覚えだ。頭の中で代わり映えのない景色を思い返しながら、修也は歩く。
「……おっと」
巣穴、と言えばいいのだろうか。迷宮の壁には穴が開いていて、その中には大型犬ほどのサイズの、灰色の蟻がいた。
「ギチチッ……」
モンスターだ。
修也は革袋を投げ捨てて、代わりに腰に吊るしている鞘から剣を抜いて、中段に構えた。
灰色の蟻は、奥から数え切れないほど出てきて、口辺りにあるハサミのような器官をガチガチと鳴らす。
「…………」
修也は意外なほど冷静に、迫りくる一体の蟻を切断した。蟻は大きいものの、背丈は低いので、下からショートソードを斬り上げて対処する。
ショートソードは驚くほど軽く、片手で振り回せるほどだ。しかも、適当に斬るだけでどんどん蟻の死体が増えていく。
蟻は、修也に向かって突っ込んでくるだけだ。ハサミのような器官で攻撃するのだろうが、その前に斬ってしまえば、その対処は容易い。
――そしてしばらくした後、あれほどたくさんいた蟻は全滅していた。
モンスターにある魔石はどこにあるのかと、一体の蟻の死体に歩み寄った所で、蟻は微細な光の粒となって消えていった。そして、蟻の死体があった所には、拳大で半透明な灰色の石、魔石だけが転がっていた。
「モンスターは、倒したら勝手に消えるのか」
修也はそう呟いた後、地面に放った革袋の紐を緩めて革袋を開けると、その中に魔石を放り込んだ。
「全部入るか? これ……」
修也は、周囲に転がっている魔石を眺めて、そんなことを呟いた。
「大きめの革袋もらって良かったな。全部入った」
それから少しして、修也は魔石を全て革袋に入れ終わった。
少しだけ重くなった革袋を再び持って、修也は再び迷宮の中を歩き始めた。
★★★
この迷宮の構造は、なんだか迷路と似通ったものがある。
ここまで来るのに、行き止まりに3回もあたったのだ。洞窟内の道は何個も分岐点があり、地図が欲しいと何度思ったことか。
モンスターには一度も遭遇しなかったのだから、先行した他の探索者の人がいるのかもしれない。
と、そんなことを考えながら歩いていると、また行き止まりに当たった。
「4回目、と」
今度この迷宮に来た時には、マッピングの為の道具でも持ってこようかと思った、その時。
カタカタカタ……
「ん?」
硬いもの同士があたっているような音。元いた世界で見たキツツキの様子を思い出せる音だ。
音は、今修也が通ってきた道から聞こえてくる。足音らしき音も聞こえてくることから、新しいモンスターで間違いない。
鞘からショートソードを抜き、じっと何かが来るのを待ち構える。
カタカタカタ……
人骨が、剣を持って立っていた。
「ッ!」
名付けるならそう、スケルトンだ。
スケルトンは、その手に持つ剣を修也に向かって振り下ろしてくる。
修也はそれをショートソードで斬り返すことで受けた。お互いの剣が弾かれ合い、そして、お互いにもう一度剣を振り下ろし、またぶつかる。
だが今度は剣が弾かれることはなく、鍔迫り合いが起きた。ギリッ、とお互いの剣が軋む。
スケルトンは、剣に込めていた力を急に抜いた。それによって、修也の体が前のめりになる。
「くっそ!」
その隙をスケルトンが見逃すはずもなく、そのまま剣を斬り上げてくる。
修也はそれを、ガントレットで剣の側面を叩くことで防いだ。その後、強引に姿勢を立て直して、一旦距離を取る。
「強い……」
スケルトンは、修也には無い技術を使ってくる。今の修也とスケルトンの差は技術で埋めるのは難しい。
ならば、スケルトンには無い、体内の魔力を使えばいい。
「…………」
目に魔力を集中させて、動体視力を上げる。全身に巡らせている魔力の流れが多少滞るが、戦闘に支障はない。
「よし」
体内の魔力は、外に出さない限りは無限に使う事ができる。
この世界の魔法使い、魔術師達は、この魔力を火にしたりする事が出来るのだろうが、修也には身体能力の強化しか出来ない。
修也の武器は、身体能力の強化と剣しかない。だから最大限にこれらを活用する。この世界で生きていくにはそれしかない。
カタカタ……
今気づいたが、このカタカタという音は、スケルトンが歯を鳴らしている音のようだ。
だが、それに驚く暇もなく、スケルトンはこちらに真っ直ぐ向かってくる。
先程と違い、剣の動きがよく見える。余裕を持って、修也はスケルトンの剣を受けた。
スケルトンの剣を受けた後、修也はスケルトンの足を蹴った。それだけであっさりと、スケルトンの足の骨が砕かれる。
「ふっ!」
鋭い気合を放ち――スケルトンの胴体目掛けて、ショートソードを袈裟がけに振り下ろした。
その時、硬い手応えが修也を襲う。スケルトンはそのまま斬れたが、今の手応えは一体何なのか。
そう思っていると、スケルトンの体が微細な光の粒となって消え、魔石は真っ二つになっていた。
「さっきの手応えは魔石か」
そういえば、戦闘中もスケルトンの胸のあたりが光っているように見えた。
「しかし、目を強化しながら戦うっていいな。動体視力も、反応速度も上がってるし」
自分の持つショートソードを、目の前で振り下ろしてみる。
その剣は残像を残さず、振り下ろしている間は、その姿をしっかりと捉えられた。
今後はこれを戦闘時の基盤としていこう……と思った所で、修也はスケルトンの持っていた剣が消えていないことに気づく。
どうやら、モンスターの持っている武器は消えないらしい。
「…………」
試しに持ってみると、その剣が驚くほど軽いことが分かる。ショートソードと同じく、身体能力の強化の影響だろう。
持って帰ろうかと思ったが、今の自分にはショートソードがある。この剣にある鞘があれば話は別だが、この剣は持って帰れない。
カラン、と音を立てて、修也の捨てた剣は地面を滑っていった。
「行くか」
迷宮探索は、まだ始まったばかりだ。
3/20 すいません。事故で執筆中の小説を大量に投稿してしまいました。
読んでくださって誠にありがとうございます。良ければ感想、ブックマーク、ポイント等を入れてくれると嬉しいです。作者のモチベーションになるので……