第四十三話『サミナの迷宮?』
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遅めの昼食を食べ終わり、コラムの迷宮に行こうと六人が歩いていた途中、リリーはある提案をした。
「このまま行っても、さっきのラグスの迷宮みたいに手遅れになるんじゃないかしら。ユリアがボスモンスターにたどり着いて、倒される光景をまた見ることになるんじゃないかって思うのよ」
「えーと、つまり?」
テラルがそう言うと、リリーは険しい表情で返事をする。
「今からコラムの迷宮に行っても、ユリアがボスモンスターと戦ってるかもしれないでしょう? それなら私たちが行く意味もない。だから、先にサミナの迷宮に行きましょう」
その言葉を聞いて、修也は少し考える。ラグスの迷宮に行っても手遅れになる可能性が高いというリリーの意見には一理あるし、賛成しておこう。
「そうですね」
修也がそう返事をすると、他の五人も修也と同じような結論に達したのか、全員がリリーの意見に賛成した。リリーの表情が少し柔らかくなる。
「サミナの迷宮って、どこにあるんですか?」
キサイがリリーにそう質問すると、彼女はある方向を指差した。
「道沿いじゃなくなるけど、この平原を歩いていけば、サミナの迷宮に着くらしいわよ。私もどこにあるか知ってるだけで、実際にどうなってるのかが分からないし」
と、リリーは一拍置いて、
「まあ、行きましょうか。着いてきてね?」
そう言って、歩き始めた。
★★★
それから時刻は変わり、この日の夜。
「…………」
七人は、サミナの迷宮に着いた。
「……なんだ、あれ」
ゾーンは、呆然と呟く。ロクターンの五大迷宮の一つ、サミナの迷宮が他の迷宮と比べて異質だったからだ。
今までの迷宮は、洞窟だったり、谷だったりと、自然にできたものが多かった。だが、このサミナの迷宮は違う。
サミナの迷宮と思われる物は、巨大な城だったのだ。
正直、想像すらできなかった。近くまで来ても、ここがサミナの迷宮だとは、リリーに云われるまでよく分からなかった程である。
作った奴の正気を疑わざるを得ない。城には明かりが付いていて、夜なのも相まって目立ちすぎている。逆にどうしてこの迷宮が攻略されなかったのかが分からない。
その旨をリリーに伝えた所、こんな返答が帰ってきた。
「話に聞いたところだと、サミナの迷宮にはモンスターが居ないらしいのよ。代わりに使用人と城主がいるだけだってね」
「え? じゃあなんでここがサミナの迷宮って呼ばれてるんですか?」
「ここがロクターンの五大迷宮の一つだって、国の方で昔決められたのよ。初代ロクターン公の神経を疑うわ」
「決められた……って、ええ?」
修也とリリーがそんな事を話していると、ヘリヤが言う。
「とにかく、ここで待ちましょう。ユリアはなぜかロクターンの五大迷宮のボスモンスターを倒しています。きっとここにも来るはずですよね」
「まあそうね、今日はこの近くで野営かな〜」
リリーはそう言って、この場から離れようとした。ちなみに今は、サミナの迷宮の前の門に来ているのだが……。
『歓迎したい。中に入れ』
「あ、お断りします!」
突然城の方から聞こえてきた声に、修也は返事をした。その後踵を返してサミナの迷宮から離れようとする。足を踏み出して、一歩前に――。
「…………」
進めない。何かしらの魔法を使われたとすぐに察した。というか、修也はこの魔法を知っている。宿屋の女性に無理矢理掛けられた、いわば拘束魔法だ。
「おい、何しやがる!」
テラルが城の方を向いて大声で怒鳴る。どうやらこの場にいる全員に拘束魔法が掛けられたらしい。この時点で相当な実力者であることが伺える。
『いや、すまない。久々に人間と会ったのだ。少し話がしたいんだよ。拒否権はない』
その瞬間、目の前の城門が開く。すると、なぜか固まっていた六人の体が城門に向かって歩き始めた。
勝手に体を操作されている。しかも抵抗ができない。足に力を込めても、修也たちの体は止まらなかった。そのまま城の中に入る。
入って、そのまま廊下を歩く。赤いカーペットが敷かれていて、周りの壁には蝋燭があり、それが廊下を照らしていた。
長い長い廊下を歩き――それから数分後。
ガチャッ、と音を立てて、目の前の大きな扉が開かれた。
奥には玉座らしき物があり、そこには横に使用人を並べている一人の少年がいた。しかも、玉座があるのに修也たちの正面から見て、縦に長い机がある。
「誰だ、お前は」
修也が少年にそう言うと、少年はあっさりと素性を答えた。
「――僕は、ロクターン公だ」
もうこの時点で嫌な予感しか感じない。
少年の言葉に、リリーが反応した。
「あなた、嘘つかないでよ。ロクターン公国を統治しているのは、お父様よ?」
「嘘はついてないさ。僕はロクターン公だ。君のおじいさんになるのかな?」
いや、この少年の口ぶりからして、間違いない。修也はこの声を聞いたことがあった。ユリアの記憶の中でだが。
「……お前、初代か」
「あれ、初代って呼ぶ人は久しぶりに見たなぁ……何者だい? 君は」
こいつは、目の前にいるこいつは、一連の騒動の全ての元凶だ。ユリアの記憶を持っているの修也だけが知っている真実。かつてのロクターン公国が行っていた実験の首謀者。
「何者でもいいだろ。もう一度聞く。お前は初代か? 初代ロクターン公か? エルフに知識を授かったとか言われてる、あの初代か?」
ロクターン公を名乗る少年は、修也の言葉を聞いて顎に手を当てている。その間に、リリーが話しかけてきた。
「どういうこと?」
「いや、状況的に考えてそうでしょうよ。ロクターン公を名乗り、リリーさんのおじいさんだと言う人物なんて、それくらいしか思いつきませんよ」
いつの間にか、自分が動けるようになっている事に気づいた。修也は背中の剣を抜き、構える。
すると、ロクターン公を名乗る少年は言葉を紡いだ。
「ああ。そうだ、君の言う通り。で、それを知った君たちはどうする。一応動けるようにはしたけどさ。まさか襲いかかってくるなんて言わないよね? 僕は話がしたいだけなんだ。今国はどうなっている? ユリアは? 情勢は? 戦争は起きそうになっているのか?」
「――襲いかかるに決まってんだろ! 初代!!」
足に力を込めて、修也は跳躍した。 手を出そうとした使用人たちに、初代ロクターン公は呼びかけた。体を静止させ、不自然に立ち止まる。
「ッ!」
そのまま、初代ロクターン公に錬剣を振り下ろした――たが、魔法文字の壁でそれが阻まれる。マグナも使っていた、結界の魔法だ。
「僕は、君らと話したいんだよ。200年前から現在に至るまで、来てくれた人は沢山いたけど、ロクターンの五大迷宮を一つも攻略していない人ばかりだったからねぇ。君たちには興味があるんだ。お分かりかな?」
「知るか! ユリアにあんな力を与えた元凶がほざいてんじゃねぇよ!」
錬剣を持つ腕に力を込めても、結界が砕けることはなかった。むしろ反発しているのか、錬剣が押し返され始めてしまう。
そして、
「グッ!」
修也は吹き飛ばされた。
錬剣は落とさなかったものの、修也は床を転がり、いつの間にか閉まっていた扉に激突した。他の皆が、修也に駆け寄ってくる。
「大丈夫か!?」
「……いや、俺はいいから、あいつを……」
修也と初代ロクターン公のやり取りを見ていたリリーは、部屋に響き渡るような声で言った。
「話し合いとやらを、しましょう。それでいいんでしょう? 初代ロクターン公」
「ああ、いいとも――君たち、そこの椅子に座りたまえ」
その言葉に、六人は頷いた。
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