第三十三話『ある少女の記憶 〜研究施設に連れてこられて〜
――固まっていると、ストーム=スネイクの千切れた胴体から緑色の光が出てきた。
ファイアリー=ドラゴンと同じような感じがする。嫌な予感がして、修也はその場から離れようとした。だが。
「…………」
あの光から目が離せない。なぜか強烈に引き寄せられるというか、自分から近づかないとだめな気がする。そして、修也は自然とその光に近づいていく。
「シュウヤ? どうしたの?」
修也の様子を見ていたリリーが話しかけてきた。返事をしようと思ったが、その前に緑色の光は修也の体に吸い込まれていった。
頭の中に、声が聞こえる。
『なるほど、あなたの名前はシュウヤというんですか』
それは、たった今倒したストーム=スネイクの声だった。耳鳴りがだんだんと酷くなっていくのを感じる。呼びかけてくるリリーの声も、聞こえなくなった。
また、ストーム=スネイクの声が聞こえる。
『では、手短にこちらの要件を聞いてもらいましょう――ファイアリー=ドラゴンからユリアの記憶を貰いましたよね? ワタシからも、ユリアの記憶を渡します』
遂に地面に膝を付いた修也は、そのままストーム=スネイクの声に耳を傾けた。
『また、お会いしましょう』
そんな声が聞こえたのと同時に――修也の意識が、暗転した。
★★★
「う……ん……」
一人の少女――ユリアは、暗い場所で目を覚ました。
なぜだろう、ここに来るまでの記憶が曖昧だ。ユリアは頭を振って、暗闇に目を凝らす。
すると、人の気配を感じることができた。ユリアは少し安心して、人の気配を感じる場所に向かおうとしたが――。
チャリ、と聞き覚えのない音が自分の足から聞こえて、ユリアは違和感を感じる足首に目を向ける。僅かに見える銀色が、壁の方まで繋がれていた。
それに手を触れた途端、天井から光が点いた。太陽のような、明るい光。その方向に目を向けると、目が眩んだ。
「キャッ!」
目を両手で抑えて、ユリアはその場で蹲った。それを見て、誰かが笑っているような声が聞こえる。
「誰?」
目が眩んで、ユリアはその人の事がよく見えない。だがそれはすぐに収まり、その人の事を見る事ができた。いや、その人たちか。
「それはこっちが聞きたいな、お嬢さん。私たちもいつの間にかここにいたんだよ。君で五人目だ」
そう言ったのは、赤髪の男性。前に村を訪れた貴族様のような雰囲気だったが優しそう、というのが、ユリアの第一印象だった。
その男性の他に、ここには四人の男女がいた。それぞれが銀色の輪っかを繋げた紐に捕まっているようで、それと同時に、ここが広い部屋の中だと気づく。
ユリアは、先程の男性とは違う人に質問する。
「ねぇ、ここはどこ?」
「分かりませんよ。私もいつの間にかここにいたんですから」
そう言うのは緑色の髪の毛の女性だった。落ち着いた雰囲気で、優しそうだというのが、ユリアの第一印象である。
ユリアが落胆した所で、部屋のどこかから、部屋中に響き渡る声が聞こえた。
『やあ、どうやら全員が目覚めたようだね』
男性か女性かも分からない、中性的な声。その声にはなんとなく不気味さがあった。
赤い髪の男性が、その声の主に声をかける。
「誰だ貴様は! なぜ私たちをここに連れてきた!」
赤髪の男性が立ち上がると、チャリ、と音を立てて、彼の足首につけられている鉄の紐が揺れた。
謎の人物は、全員に向かって言う。
『君たちを拉致させてもらったのは、ある実験に協力してもらう為だ』
「拉致!? なんて事をしてんのよ! 私たちを家に帰して!」
そう言ったのは青色の髪の女性だった。気が強そうで怖い、というのがユリアの第一印象だ。
青色の女性の声を無視して、謎の人物は言う。
『ちょうどいいから、君たちに記憶を返そうか。拉致した時の記憶を思い出せないだろう?』
そんな声が聞こえた途端、ユリアの頭を頭痛が襲う。それは他の四人もまた同じようで、その場にいる五人は、地面に蹲った。
――だんだんと、記憶が蘇っていく。
ユリアはあの日、父親が言っていた、ロクターン公の家の近くにある研究施設に興味を持って、研究施設を探そうとロクターン公の家の近くを訪れていた。
そして、見つけてしまったのだ。透明になっていた研究施設を。遠くからでは見つからなかったので、ロクターン公の住んでいる家の敷地に入ってしまった。それが行けなかったんだろう。
貴族様の家の敷地に入るのはだめだと、母親に言われていたのに、ユリアは入ってしまったのだ。
その後、研究施設らしきものを見つけた直後に、背後から何者かに殴られて意識を失い……。
今、ここにいる。
記憶が急に呼び起こされた事で、ユリアは息を切らしていた。
「はぁ……はぁ……」
それは、この場にいる全員もまた同じようで、急に記憶を思い出したことによって起こる頭の痛みで蹲っている。
『こちらからはそっちの光景は見えないが、どうやら完全に記憶を取り戻したようだね』
「なんなんだ? 僕たちは何もしてないはずなのに、なんでこんな事を……」
そう言ったのは、茶色の髪の毛の男性だった。怖そうというイメージしかない、そんな人だ。茶髪の男性は、立ち上がる時に足首の鉄の紐がチャリ、と鳴った。
『君たちには、これから私の実験を受ける、実験体になってもらう』
「じ、実験体!? 嫌よ、そんなの!」
幼いユリアには、実験体が何なのか分からないが、なんとなくそれが良くないものだということは、青髪の女性の反応を見れば分かる。
だが、決して泣き叫ぶ事はしなかった。純粋な恐怖がユリアの胸中を占めているが、青髪の女性の事を見ていると、なぜかそんな気は起きなかったからだ。
『なに、心配することはない。薬物投与を一日七回、魔法実験を一日五回ほど行うだけだ。極力死亡するような事はしないさ』
「……それでも、実験は実験でしょう?」
そう言うのは、紫色の髪の毛の女性だった。静かそうで、どこか安心できる雰囲気で、ユリアはその人に視線を向ける。
『はっはっはっ、大丈夫、心配することはない。極力死なせないようにするからな。では、さらばだ。今日はもう遅い、君たちも寝るといい』
そんな声が聞こえた後は、もうその声は聞こえなくなる。
静寂が訪れていた中で、赤髪の男性は、全員に話しかけた。
「全員の名前を聞きたいな。一人ずつ言っていってくれ」
その言葉に、なぜか全員が従う。
最初に名前を言ったのは、赤髪の男性だった。
「私はレクス=マルタだ」
次に言ったのは、青髪の女性だ。
「私の名前は、エヴァ=ラグスよ」
次に言ったのは、緑髪の女性。
「私はフラン=カーナです。よろしくお願いします」
次に言ったのは、茶髪の男性だった。
「僕はニコラス=コラム。よろしく」
次に言ったのは――ユリアだった。
「私は、ユリア=サミナです。よろしくお願いします」
全員の名前を聞いた後、レクスは言う。
「全員で何とかここをでるぞ」
みんな、無言で頷いた。
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