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旅人剣士の異世界冒険記   作者: うみの ふかひれ
第二章 魔法の国ロクターン
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第三十一話『ストーム=スネイク②』

ブックマークにポイント、ありがとうございます。

 ストーム=スネイクは、突然大量の息を吸ったと思ったら、そこからブレスを放ってきた。風のブレス。勢いが凄く、修也、ヘリヤ、キサイ、テラルはそれぞれ岩の壁に勢いよく叩きつけられた。


 肺の空気が全て出されて、四人はその場で蹲る。蹲っている間、ストーム=スネイクはこちらを見下ろしていた。そこに三人の魔法攻撃がストーム=スネイクを襲う。


 火の玉が向かっていき、そして爆発する。その音と振動がこちらにまで届いてきて、修也は体を震わせた。もし自分があれを食らったら、ひとたまりもないからである。


 黒煙がストーム=スネイクの体を包んでいる。流石に殺られたか、そう思った瞬間に黒煙が霧散して、そこには無傷のストーム=スネイクの姿があった。


 魔法でも駄目なら、一体どうすればいいのだろうか。修也は錬剣を持って立ち上がり、考える。

 

 あれを倒すのに邪魔な物は二つ。体を覆っている風の防壁と、単純なストーム=スネイクの強さだ。攻撃は避ければいいだけの話だが、風の防壁はどうしようもない。


 頼みの綱の《魔力物質化》ですら、風の防壁で防がれてしまったので、風の防壁の防御力は折り紙付きだろう。


 何か、風の防壁を突破できる程の貫通力のある攻撃ができれば……。


 そんな時に、ふとテラルの顔が浮かんだ。彼の《魔力物質化》なら或いはと思って、テラルの攻撃を見守る。


「おおッ!」


 テラルは、槍の穂先に魔力の光を灯して、《魔力物質化》を放つ。風の防壁に槍を突き刺した後に、穂先からレーザーが放たれた。


 レーザーは、ストーム=スネイクの風の防壁を貫通して、その体に直撃した。だが、風の防壁に槍を突き立てるのが精一杯なようで、ストーム=スネイクの体に少し穴を開けただけに留まる。

 

「ぐおっ!」


 テラルはそんな声を上げて吹き飛ばされた。先程と同じく何度も地面を転がり、止まる。テラルの《魔力物質化》でも、少し穴を開けるだけが精一杯、と。


 すると、キサイが真っ直ぐにストーム=スネイクに向かって走り出した。足の動きが、修也の強化された目でも、ギリギリ目で追える程の速さで動いている。


 相変わらず、キサイの動きは早い。今の修也では、無意識レベルで普段から目を強化している魔力を含む、全ての魔力を使わなければ、あれ程の速さで走れないだろう。


 未だに低空飛行して、空中に浮いているストーム=スネイクに向かって、キサイは鋭い踏み込みと共に、剣を振り下ろした。


 だが、その斬撃も風の防壁に押し留められる。力を込めているのが見て取れるか、すぐに風の防壁で弾かれ、そのまま地面を転がる。


「……ん?」


 風の防壁でキサイの剣が弾かれた時、ストーム=スネイクの体に開いた穴付近にあった血しぶきが、風の防壁で飛ばされた。


 あれを見て、修也は気づく。風の防壁によって体を飛ばされる時、ストーム=スネイクは体に纏っている風を全方位に吹き飛ばすのだ。だから攻撃を受け止めた後に、吹き飛ばされる。

  

 要は、攻撃した奴の体が吹き飛ばされた直後、ストーム=スネイクを覆っている風の防壁がなくなる。無防備な体を晒すわけだ。


「リリーさん!」


 それをリリーに伝えようと、修也は少し離れた所にいるリリーに呼びかける。


 彼女は、返事をした。


「なに!?」


「あいつの体を覆っている風は、攻撃した奴を吹き飛ばした直後に無くなってます!」


「つまり、誰かが吹き飛ばされた直後に攻撃すれば、ちゃんと届くってこと!?」


「はい、たぶ――」


 多分と、言おうとした直前、強い風が修也を襲う。視界の端に、こちらに近づいてくる何かが見えて、修也は口を閉じる。


 よく見ると、いや、よく見なくてもそれはストーム=スネイクで、空中で体をくねらせながら、真っ直ぐに飛んでくる。その視線は修也に向けられていた。


 ストーム=スネイクは、修也に向かって言う。


「余計な事を!」


「図星かよクソったれ!」


 修也が悪態をついた途端、ストーム=スネイクが目測で数メートルの距離まで迫ってくる。


 剣に魔力を込めて、修也は青白い光の剣を出した。右手に持つ剣をダランと下げて、体制を前のめりにする。左足はすぐに踏み込めるように前に出して、右足は後ろに。そのまま、前を見て突進に備えた。


 ストーム=スネイクがこちらの光の剣の間合いに入った瞬間に、修也はダランと下げている剣を振り上げた。ストーム=スネイクの風の防壁に、光の剣をめり込ませる。


 だが、やはり通じない。風切り音が修也の耳を支配して、その直後に体が吹き飛ばされる。地面を転がって、修也は倒れた。


 と、その時。


 ゾーンが放った魔法が、ストーム=スネイクの体を捉えた。


「ぐっ!」


 ストーム=スネイクは、苦しげな声を上げる。ゾーンが放ったのは風の魔法。風の刃がストーム=スネイクの体の一部に裂傷を作っている。


「みんな! ストーム=スネイクが、誰かの攻撃を風で吹き飛ばされた時を狙って攻撃して!」


 リリーのそんな声が聞こえて、六人は無言で頷いた。


「…………」


 修也は、立ち上がってストーム=スネイクを見た。錬剣を強く握りしめて、その場から走り出す。


 ストーム=スネイクは、テラルの方に向かって飛んだ。あれにぶつかれば、ストーム=スネイクの体を覆っている風に吹き飛ばされることだろう。


「おらッ!」


 テラルは、突進してくるストーム=スネイクに向かって、槍を突き立てた。その瞬間に空気が揺れて、修也は立ち止まる。目を凝らすと、ストーム=スネイクの体の周りに薄い膜のような物があった。


 ストーム=スネイクは、やむを得ずにテラルの事を吹き飛ばした。そこにエンジュが巨岩をストーム=スネイクに向かって放つ。


「え……」


 予想外の事が起きた。なんと、ストーム=スネイクは再び風で体を覆う直前、風に指向性を持たせてレーザーのような鋭い風を放ったのだ。


 風圧のカッターと言うべきものが、エンジュの放った岩を真っ二つに切断した。風のレーザーはエンジュのいる所にまで届き、エンジュの体を切断しようとする。


 だが、エンジュはその直前で左に跳んで避けた。風のレーザーは、エンジュではなく、その後ろにあった岩の壁に線を入れて、消えてしまう。


 ――それを視界の端で見ながら、修也は走っていた。


 今、風の防壁らしき物はストーム=スネイクにはない。風のレーザーを放ったからか。ともかく、剣が届けばそれでいい。


 足に魔力を込めて、速度を上げる。風の防壁は、ストーム=スネイクの体に纏わり始めていた。


 修也の斬撃を防ぐかと思ったが、少し遅い。


「ッ!」


 気合を上げて、修也はストーム=スネイクの体に剣を振り下ろすと、ここに来て、初めてまともなダメージを与えることができた。

  

 錬剣クルシュはロングソードなので、斬ると言うよりは抉るといった方がしっくりくる。錬剣の全ての刀身がストーム=スネイクにめり込んで、そして振り抜く。


「よし!」


 錬剣は、今までずっと片手で持って斬撃を繰り出している。攻撃力は無いが、魔力で強化された修也の身体能力で持っている錬剣クルシュは、アドミウムと、あのよく分からない剣との合金でできている。故に重く、攻撃力がある。


 右手に持つ錬剣を振りあげようとしたが、その前にストーム=スネイクの風の防壁が復活して、修也の錬剣はそれにぶつかった。


「ハッ!」


 ストーム=スネイクは初めてそんな声を上げて、修也の体を風で吹き飛ばした。修也は地面を転がる。

 

 止まって、立ち上がると、ストーム=スネイクは、無言でこちらを睨みつけていた。


 戦いは、もう少しで終わりそうだ。


 


 


 

 


 


 

読んでくださって誠にありがとうございます。良ければ感想、ブックマーク、ポイント等を入れてくれると嬉しいです。作者のモチベーションになるので……

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