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旅人剣士の異世界冒険記   作者: うみの ふかひれ
第二章 魔法の国ロクターン
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第七話『公女の頼み』

 その後、修也とヘリヤ、そしてリリーは第一層を歩いていた。三人の間には妙な雰囲気が流れていて、ヘリヤとリリーは同じ女性同士だからか、会話が弾んでいた。


 その会話を聞き流しながら、修也は思考する。


 目の前のリリーは、自らをロクターン公国の姫だと名乗った。ここで王女と名乗らなかったのは、彼女が『王国』ではなく『公国』の姫だからだ。公国では、ロクターン公の娘だから、公女と名乗るのがいいらしい。


 問題は、なぜロクターン公国の公女がこんな危険地帯にいるのか、ということ。普通に考えて、公女という身分なら当然護衛やら監視役やらがいるはずで、彼らの監視をすり抜けてマルタの迷宮に来るのは難しいはずだ。


 今思い出したが、リリーは昨日ロクターン公国の道で二人の兵士に捕まっていた。そして、道で人だかりを作っていた野次馬共は口々に言っていたのだ。またか、と。リリーは、何度も何度もあの城から抜け出せていることになる。


 今はヘリヤと親しげにしているリリーだが、あの警備が厳重そうな城から抜け出すことができるほどの実力を持っているとなると、警戒せざるを得ない。


 修也が今一番警戒している魔法使いの可能性だってあるのだ。そう考えると、リリーに向ける視線が、少し厳しくなる。その視線を感じ取ったのか、ヘリヤは修也に話しかけてきた。


「どうした? シュウヤ」


「いや、なんでロクターン公国の姫様が、こんな危険地帯にいたのかな、と」


 修也がそれを聞くと、リリーは答えた。


「実は私、ロクターンの五大迷宮の奥にあると噂の魔の力に興味があるの。それでわざわざこんな所まで来たのよ」

 

「へぇ……じゃあなぜ、姫様なのに護衛も付けずにここまで来れたんですか?」


「姫という物に偏見を持ってない? 一応私だって戦えるわ。護衛をつけてないのは、その……」


 リリーは少し答えるのを迷った後、少し言いづらそうにして、言った。


「みんな、私が迷宮に行くのに、凄く反対して……」 


「殺されかけてましたからね」


「うるさい! あれはちょっと油断しただけで、別に助けてもらわなくたって……」


 そう言いかけたが、リリーはすぐに口を閉じる。先程の自分の状況が、言い訳のできないものだったからだろう。リリーは修也から目を逸らした。


 ため息をついて、修也は再び前を見る。それを見てヘリヤは修也に話しかけてくる。


「シュウヤ、私たちで、この姫様を最深部まで連れて行くのはどうだろうか」


「……何言ってるんですか? そこの姫様は、城に返して行くはずでしょう」


「いや、そうなんだがな、リリー様を見ていると、昔の自分を思い出してしまって……」


 ヘリヤはそう言って修也から目を逸らした。少々納得できないが、ヘリヤがそういうのなら仕方がない。条件付きで姫様を迷宮に連れて行こうと、修也は思いついた。


「条件付きなら、別に一緒に行っても良いですよ」


「え?」


 修也の言葉に反応したのは、ヘリヤではなくリリーの方だった。三人は足を止めて、女性陣が修也を見る。視線を感じながら、修也はその条件を口にする。


「迷宮の探索を終えるまでに、100万ゴルドを僕ら二人に、報酬として用意してください。五大迷宮の攻略なんて無謀な話を引き受けようとしてるんだ、それくらい用意して貰わないと――」


「用意する! するから、私を迷宮の最深部に連れてって!」


 修也が言葉を最後まで言い終える前に、リリーはその場で叫んだ。その声量に、修也は思わずビクッと体を震わせる。リリー自身も、自分の発言に驚いているのか、口に両手を当てている。それを見てため息をついた後、修也は発言の撤回をリリーに促した。


「今のは、聞かなかったことにしますか? リリー様」


「……いえ、もう一度言うわ。私を、迷宮の最深部に連れてって」


「はぁ……だそうですよ、ヘリヤさん」


「あ、ああ」


 ヘリヤの方を見ると、少し驚いているようだった。修也がリリーの頼みを聞いたのが意外だったか? とにかく、修也は再び歩き始めた。それに追従して、女性陣も歩き始める。


「…………」


 しかしまあ、面倒な事になった。今の修也たちは、これで擬似的なパーティーを組む事になったわけだが、そもそも修也はこの二人の扱いになれていない。

 

 それに、元から五大迷宮の最深部を目指すことは決めていたのだが、この二人の女性によって、迷宮の攻略が思ったよりも速く、楽に終わりそうになっている。それはだめだ。


 修也は別に、ヘリヤのように強くなりたいから旅をしている訳じゃない。自分の命を掛け金にした、冒険がしたいのだ。そこで得られる、未知のことを知る快感を得たい。


 修也の旅をしている理由の根本は間違いなくそれだ。衝動的な物が、二ヶ月前から修也の胸の中で溢れんばかりに暴れまわっている。この気持ちに名前をつけるなら、そう、『冒険心』だ。


「……はぁ」


 本当に、困った事になった。


 ★★★


 それから三人は、ロクターン公国に戻った。辺りはすっかり暗くなっていて、リリーは街に戻った時に突然現れた兵士に連れて行かれた。


 助けを求める声は無視して、明日の朝にマルタの迷宮のある方向の門にいなければ先に行く、とだけ言っておく。ヘリヤには、リリーと同じく朝にマルタの迷宮のある方向の門に集合、とだけ言って別れた。


 今、修也は一人だ。革袋の中には今日迷宮で取った魔石が大量にある。これらを全て換金するために、街の中を歩いていた。ロクターン公国の魔道具屋は、あの道具屋の隣にあるらしい。


「……お」


 前に来た時の道を辿って、修也はあの道具屋を見つけた。だが、ここには用はない。ヘリヤに聞いた、隣にあるという魔道具屋を探す。


 周りをキョロキョロと見回していると――背後から、耳に息を掛けられた。それに反応して、修也は前方数メートルの所まで跳ぶと、後ろを見た。


 そこに居たのは、なんと言えばいいのかよく分からない格好をした何者かがいた。トンガリ帽子に黒いロープを羽織っているのを見ると、魔法使いであると思われる。


 その人物は、修也に話しかけてきた。


「ねぇ、その中に入っている魔石、売ってくれない?」


「……別にいいけど、誰だ? お前は」


 その人物は、声音からして女性。ゆっくりとこちらに近づいてくる。革袋の中身を言い当てられたのも不気味だった。取りあえず距離を取る。


「ああ、警戒してるのね。私はそこの魔道具屋の店主、ナタリーって言うんだ。取りあえず、中に入って。魔石を売るためにここに来たんでしょう?」


 掴みどころがない。そんな性格の奴を、修也は一人知っている。マグナ=ポートマン、エステル王国の内乱を終わらせた英雄。彼女は奴に似ている。裏を返せば、信用できた。


「ああ、分かった」


 修也が返事をすると、魔道具屋と思われる建物の扉が開いた。もうなんか、警戒するのも馬鹿らしくなってくる。ため息をついて、修也は魔道具屋の中に足を踏み入れる。

 

 中には少数だが人がいて、カウンターにいる店員が彼らの対応をしていた。流石、ロクターン公国にあるだけはある。修也は魔道具屋の店主を名乗るナタリーに連れられて、カウンターのもう一つのスペースに行くと、魔石を出すように指示された。


 言われるがままに、修也は魔石を出していく。その数は多く、カウンターのスペースに収まるかどうか怪しいレベルの物であった。ナタリーはこれらの魔石を見た後、魔石に手をかざす。


 その瞬間、ナタリーの手に緑色の魔法陣が現れて、カウンターの上に乗っている魔石を魔法陣が覆った。ナタリーは目を瞑って、何事かを呟いている。


 やがて、ナタリーは目を開き、カウンターの後ろから袋が浮かんできた。その中にはゴルドが大量に入っていて、その内の半分ほどを修也のゴルドを入れている袋に入れた。


 修也が呆然としていると、ナタリーは花が開くような笑顔で言う。


「ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております」  

 

「は、はい」


 なんだか悪い夢でも見ていたかのような感覚を味わった後、修也は魔道具屋を出た。


 そして、そのまま宿屋に行くと、晩飯を食わずに二階のベットに行き、目を閉じた。

    

 

 

 

 




 


 


 


 

 

読んでくださって誠にありがとうございます。良ければ感想、ブックマーク、ポイント等を入れてくれると嬉しいです。作者のモチベーションになるので……

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