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旅人剣士の異世界冒険記   作者: うみの ふかひれ
第二章 魔法の国ロクターン
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第二話『魔法の国②』

ブックマーク一件、ありがとうございます。

 昼食のサンドイッチを食べた後、修也は街の中を歩いていた。少し納得できないが、あの宿の飯は美味かったので、そのまま泊まることにしのだ。

 

 この国では宿に鍵がつけられる上に、魔法的なことをしているために宿内での盗みは決して起こり得ないという事なので、錬剣クルシュだけを背負い、他の荷物は宿に置いてきた。

 

「…………」


 歩いていると、見たことの無いものばかりが視界の端を横切る。それらは全て魔道具だが、アカゲラの村で見たものよりも性能が良さそうだった。例えば、暖房らしき魔道具は、道を歩いている修也までその暖気を届かせている。


 今は元いた世界で言う十月といったところか。この世界では、一応春、夏、秋、冬の区分はされているものの、月の区切りはされていない。


 だが、去年と今年、来年の区分はあるようで、今年から来年に変わる直前に何かが起こるらしい。具体的には、空にあるの魔力が可視化されて空が光る、ということらしいのだ。


「まあ、その時が来れば分かるか」


 そう呟いて、思考を切り替える。


 今日は迷宮には行かない。魔法図書館にある本を読むことで時間を潰そうと思ったのだが、閲覧するには高い金が必要らしいので、予定が狂った。

 

 取りあえず、今日はこの都市を歩き回ることにする。


「お、あの肉美味そうだな」


 修也は、フラフラと屋台の方に足を運んだ。


 

 

 ――体内時計で、数時間後。


 屋台で晩飯もいらないのではないか、と思ったほど飯を食べた後、修也は再び魔法図書館のある所を訪れていた。


 魔法図書館の壁に、軽く触れてみる。すると、まるで磁石が反発しているような感覚がした後に、手が壁から弾かれた。ヒリヒリと手のひらが痛む。


 これが、入り口からしか魔法図書館に入れないようにしている結界。今まで魔法図書館で盗みが起こらなかった理由である。中から本を持ち出した場合でも、その本だけが結界で弾かれるのだ。


「……はぁ」


 ここから侵入できるかもしれないと、僅かな希望を抱いていたのだが、やはり駄目だったか。修也はそのまま魔法図書館を後にしようとした――だが。


「ん?」


 パサッ、とまるで本が落ちるかのような音が聞こえて、修也は足を止めた。だが、辺りを見回しても、それらしき物は見つからない。

 

 気のせいかとその場から去ろうとしたが、突然、視界の端に本らしき物が写り込む。


「場所的に、魔法図書館の本……なのか? でも、何でこんな所に……」


 そう呟いて、修也はその本を拾う。表紙には『ロクターン公国の歴史』と書かれていた。少しだけ興味が湧いて、そのままページを捲ってみる。


『一章 一節 起源


 公歴1376年、ロクターン公国は、我が国の先祖が、平地に街を立てたのが始まりである。その頃のロクターンは、現在のように魔法が発展しておらず、良くも悪くも普通の街であった。

 

 魔法の発展の始まりは、初代ロクターン公が魔法に興味を持ったことであった。彼はエルフから魔法の理を授かり、その奇跡の力を存分に振るい、遂に一般の人間でも魔法を行使できる程に魔法を発展させた。


 公歴1389年、彼がエルフから魔法の理を授かって13年後、一人の少女が実験体として、発展した国の施設に連れてこられた。彼女の名前は誰も知らず、その少女の他に四人の男女が連れてこられた。


 その実験は、『人間の脳の覚醒』について。初代ロクターン公によると、人間の脳はその知的潜在能力を10%しか発揮していないそうだ。その潜在能力を覚醒させるため、四人の男女は連れてこられた。


 様々な魔法、薬物を用いた実験の結果は成功。先述の少女だけがその実験で生き残り、脳の50%を覚醒させることに成功した。


 だが、少女の力は脳を覚醒させたことで強大になり、体内で魔力を生成するなどの超人的な力を得た。――だが、ある意味実験は失敗したとも言える。

 

 具体的に、少女がその後どうなったのかは、誰にも分からない』


 ここまで読んだ所で、修也はその本をパタンと閉じた。無言で元あった場所に戻すと、修也は早歩きでその場から去っていった。


「ヤバいってあれ。何なんだよ、マジで」

 

 内容が不気味だ。最初の方はまだ普通だったのに、四人の男女の人体実験について書かれていたのは非常に不気味だ。そもそも、なぜあんな所にこの国の歴史が書かれた本があったのか。


 この事は忘れようと決心した所で、修也は歩みを止める。改めて思ったのだが、なぜあんな物か外にあるのか。もしかしたら一般的に普及されているのかもしれないが、魔法図書館の近くにあるという時点で不自然だ。


「……考えても仕方ないな」


 そう思って、修也は再び歩き始めた。

 

 ★★★


 気がつくと、辺りはすっかり暗くなっていた。


 修也はそれに気づくと、すぐに宿屋に戻る。現在の時刻は、元いた世界で六時くらいだろう。今はちょうど秋なので日照時間がどうなっているのかは知らないが、多分六時だ。


 人の波を通り過ぎて、そのまま歩くこと数十秒、すぐに例の宿屋に着くと、修也は宿屋の扉を開けた。中からはムワッと熱気が流れてくる。暖房型の魔道具でも使っているのかと思ったが――そんなことではない。


「うわっ!」

 

 中は、酒を飲んでいる輩で溢れかえっていた。この宿屋でたくさんの人が酒を飲んでいるために、中に熱気が充満しているのだ。


 ヤバい、酒を飲んでいる奴に絡まれるのが一番面倒なのだ。修也は中の人に気づかれないように宿屋の中に入った。だが、誰かにガシッと肩を掴まれる。


 ビクッと反応して、修也は後ろを振り返った。そこに居たのは……。


「いやー盛り上がってますね〜」


「お前かよ! 宿屋の奴が何で酒飲んでんだ!」

  

 宿屋の店員だった。しかも、昼に修也に接客をした女性だ。その顔は紅く、凄く酔っているのが分かる。すぐにその店員から離れて、修也はそのまま予約した部屋に向かう。

 

「逃しませんよ?」


 女性の店員の声が聞こえた瞬間、全身が固まった。その感覚には覚えがある。ロクターン公国に来るまでに立ち寄った村で同じものを喰らった。


 これは魔法だ。


「おい! わざわざ魔法を使ってまで俺を止めるな! 飲まねぇよ? 俺未成年だし!」


「あら、何を言ってるんですか? 酒は基本的に自己責任で飲むものですよ? 成人とか関係ありません」


「未成年とか関係ねぇのかよ!」


 まずい。この魔法から逃れる術がない。前に掛けられた時には強引に抜け出した事があるが、それは周囲の魔力を取り込んで、瞬間的に全身を強化したからできたことだ。


 こういう時に、自分の運の無さが恨めしく思う。今魔法図書館に入れたのなら、この魔法から逃れる術を知ることができただろうに……。


「さ、行きましょうか」


「い、嫌だ! 行きたくない!」


「まぁまぁ、そんな我儘言わないでくださいよ」


「我儘言ってるのはどっちだ! しかも見た感じ酔ってるし、説得力ねぇんだよ!」


「…………」


「嫌だ! お、おい、ちょっと! 誰か助け――」


 宿屋の扉が、バタンと音を立て、修也の目の前で閉まった。




 

 

 


 


 


 


 

    

 

読んでくださって誠にありがとうございます。良ければ感想、ブックマーク、ポイント等を入れてくれると嬉しいです。作者のモチベーションになるので……

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