第一話『魔法の国①』
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――あの冒険から、二ヶ月が経過した。
アカゲラの村から遠く離れた国、ロクターン公国。ここまで来るのに、本来なら、商人の馬車などに護衛の名目で移動するのが普通らしいのだが、修也はずっと歩いて来たのだ。国境を超えて、ロクターン公国に行くまで、ずっと。
ここまでに三つの村を訪れて補給をしながら、とにかく歩いた。道を間違えたと思ったことは何度もある。だが、実際に存在したのだ。ロクターン公国、通称《魔法の国》が。
これは、ロクターン公国での修也の軌跡を描いたものである。
★★★
石の城壁を潜り抜けると、そこにはまさしく魔法の国という通称に納得できる光景が広がっていた。
アカゲラの村で見た魔道具がそこら中にある。外灯も魔道具だし、走っている馬車も魔道具だ。見ただけだが間違いない。ファンタジーの世界にあるような光景が、目の前にある。
向こうには、巨大な城があった。公国というのに城があるのも妙な話だ。でもひょっとしたら、公国に城がないというのは修也の偏見で、向こうの世界でも城があるのかもしれない。
ここが、向こうの世界で言う『都会』。今まで修也がいたのは紛れもない田舎だったのだ。
「……おお」
そんな中を、修也は歩く。周りをキョロキョロと見回しているのは、どう見ても田舎者の姿だ。周りが何も言わないのには、この世界の人の人格の良さがにじみ出ている。
周りの人は、誰もが違う髪の色だった。赤、青、金。その中で、黒髪は修也だけだ。
「…………」
修也は、改めてこの国に来た目的を思い出していた。
ここには、魔法について詳しく知るために来た。この国には、魔法学院という、魔法について学べる学校があるらしいのだが、修也はそこには興味がなかった。
興味があるのは、誰でも利用できる魔法図書館と言う所だ。この国には、この二つが魔法について知るのに最適らしいのだが、どちらも魔法と言う文字がついているのに適当さが垣間見える。
「探すか」
この世界に来てから三ヶ月が経過して、修也はすっかりこの世界の住人になっていた。
「……嘘だろ、おい」
体内時計で数十分が経過した後、修也は魔法図書館の前で打ちひしがれていた。最大の誤算だったのだが、どうやら図書館を利用するのには金がいるらしいのだ。
しかも、かなり高額。この国に来るまでに、路銀はほとんど使ってしまった。食費も考えると、もう三日しか生活できない。
先程、魔法図書館に入ろうとした時に知った事実。受付の人に突っぱねられて、修也は魔法図書館の入り口で立ち尽くしている。
「あの、そこどいてくれませんか?」
受付の人にそう言われて、修也は無言で魔法図書館の入り口から離れていった。絶対に入るという決意を胸に、修也は歩く。
さて、どうしようか。路銀を稼ぐには、やはり迷宮に挑むしかないのだが……ここで、迷宮についての知識を思い浮かべる。
このロクターン公国の近くには、ロクターンの五大迷宮と銘打たれた迷宮が存在する。それぞれに名前があることから、この五大迷宮の凄さが垣間見えるというものだ。
それぞれが遺跡の迷宮で、マルタ、カーナ、サミナ、ラグズ、コラムという名前がついている。一応探索されているのだが、まだ最深部には誰も辿り着いたことがないらしい。
「まあ、当面は迷宮探索かな」
そんなことを呟いて、修也は空を見上げた。
「ん?」
一瞬、空に何かが見えた。もう一度よく目を凝らしてそれをみてみる。
「……結界?」
空に、謎の幾何学模様が浮かんでいた。あれが何なのかは知らないが、恐らく外敵から見を守っている……のかもしれない。それも魔法図書館に入れば分かることだ。
「まあいっか」
今は昼時。腹が減ったので、修也は飲食店を探そうと周りを見渡した。
「お」
すぐにそれらしき店を見つける。だが、そこには人だかりができていて、何やら揉め事が起こっているようだ。高い女性の声と、低い男性の声が聞こえる。
修也の中の野次馬精神が頭を持ち上げて、人だかりの方にフラフラと歩いていく。すると、喧騒に包まれていたロクターン公国の中で、ここだけが妙に静かだった。
二人の男女の声。痴話喧嘩か何かだろうか。人と人の隙間から、その様子がはっきりと見えた。何やら高貴そうな服装を着た少女と、二人の兵士。明らかに少女が襲われているのに、なぜ周りは誰も手出ししようとしないのか。
周りの人たちは口々に言う。
「またあの人か」
「相変わらずお転婆なお方だなぁ」
「城から抜け出すことを生きがいにでもしてんじゃねぇか?」
「ははっ、違ぇねぇ」
分かるのは、あの少女が高い身分であるということ。あの兵士たちは少女を城に連れ戻そうとしているのか?だから周りは手出ししようとしないのかもしれない。
とにかく、関係のないことだ。修也はそう思うと、すぐに人だかりから離れた。
たが、気がかりなのは、去る直前に聞こえた声。
「ちょっと! 離してよ!」
「駄目です! さぁ、帰りましょう! リリー様!」
「嫌! また魔法の勉強なんて嫌ァ!」
「我儘を言わないでください! あなたは、この国の未来を背負って生まれてきたんですよ!?」
「そんなことどうでもいい! 私は自由になりたい!」
……駄目だ。無視しろ。同情なんてするな。そんなもの、される方は屈辱的に決まってる。
修也は視界の端に見える、もう一つの 飲食店に向かって歩き始めた。
★★★
飲食店に見えたのだが、実はそこは宿屋だった。中に入ったところでそれに気づいた修也は、ここの店員の女性に、店の外にあるややこしい看板について問い詰める。
「あれちょっと名前ややこしすぎません? なんか色々と」
「気にしないでください。客寄せの一環ですので」
「まあ、こっちとしては都合がいいし……まあいっか。取りあえず、何処に座ればいいですか?」
「そこのテーブルでお待ちください。ちなみにメニュー表はございません」
「なんでだよ! おい! 無言で奥に行くな! ちょっと!?」
……納得できないまま、修也は店員に言われた通りにする。テーブルに座り、じっと料理が来るのを待っていると、隣のテーブルの会話が聞こえてきた。
「なあ、知ってるか? ロクターンの五大迷宮の噂」
「いや知らん。なんだそれ」
「あの五大迷宮の奥には、すげぇ魔の力が眠ってるっていう噂だよ。誰がその噂を流したのかは知らないが、魔の力を求めて、エステル王国とかノトス帝国とかから豪傑共が集まってるらしいぜ」
「へぇ、魔の力ねぇ……でもよ、仮にそんな物があったとして、そいつらはそれをどうするんだ?」
「そんなもん、俺たちみたいな普通の探索者には分からんだろ」
「まあ、それもそうだな」
その会話を聞いていると、カチャンと机から音がなる。ビクッと反応してそこを見ると、なぜかサンドイッチが何個か置かれていた。
「……メニュー表は無いって、最初から出すものが決まってたってことね」
あの店員の発言について納得すると同時に、疑問に思うことがある。このサンドイッチは、一体どこから来たのだ?
「…………」
修也はそこから何も考えずに、そのサンドイッチを口にした。
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