第三十五話『領主ウルゴーン②』
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領主の生成したゴーレムによる攻撃は、先程までの戦闘と比べると見劣りするが、十分に苦戦を強いられていた。
ゴーレム単体の強さはそこまでではない。むしろ脅威なのはその物量。修也が一体倒すまでの間に、ウルゴーンは三体のゴーレムを生成する。
ここで修也が一人なら、苦戦を強いられていただろうが――後ろには、マグナ=ポートマンという心強い味方がいる。その魔法の威力は折り紙付きだ。
「ッ!」
ゴーレムの足を切断した後、姿勢を崩した所を狙って胴体を切断する。これだけで倒れるのだから、このゴーレムたちは弱い。立ちふさがるゴーレムたちを、二人は次々と倒していく。
ゴーレムは、この広間を埋め尽くす程の勢いで増え続けている。減らしても、減らしても、その数はだんだんと多くなり――本格的に、領主に近づけなくなっていた。
「くっそ! おいマグナ! これどうするよ!」
「ちまちま倒しても埒が開かねぇな! 大魔法を使う! 少しだけ持ちこたえろ!」
そう言うと、マグナは魔法を放つのをやめて、何事かをブツブツと呟き始めた。マグナの事を信じて、修也は向かってくるゴーレムたちを迎え撃つ。
剣に魔力を込めて光の剣を生成すると、修也はそれを横凪に振るった。五体のゴーレムたちの胴体を切断したが、周りからはたくさんのゴーレムが迫ってくる。
「ッ!」
一体目のゴーレムの胴体を切断した後は、二体目のゴーレムの足を狙って剣を振り下ろす。ゴーレムを倒すのは無理だ。だから行動不能にして、術者のウルゴーンを狙う。
ゴーレムの攻撃は単調だ。それこそ、ワーリング=ナイトやエドワードとは比べるまでもない。振り下ろされる拳を避けて腕を斬る。その勢いでゴーレムの体を真っ二つにすると、修也は次のゴーレムに向かって走った。
「…………」
それにしても、この錬剣クルシュ、何と扱いやすいのか。
ショートソードではなくロングソード。修也が先程まで持っていたショートソードとは、重さも長さも違うのに、まるで長年手にとって振り回してきたように手に馴染む。
ロングソードは、本来両手で持つものだ。ショートソードとは重さが違うためだが、修也の強化された身体能力では、この錬剣は軽い。それこそ、片手で振り回せるほどに。
重いからだろうか、ゴーレムの体にその刃を沈み込ませるのが楽だ。攻撃を避けて反撃するまでのプロセスがスムーズに行える。
ゴーレムたちを相手にしていると、後ろからマグナの声が聞こえた。
「上に跳べ!」
その瞬間、背筋に悪寒が走る。修也は目の前のゴーレムを足場にして上に跳んだ。
――轟音が、周囲に響き渡る。
「…………」
下を見ると、ゴーレムたちの殆どが吹き飛んでいた。床には焼け焦げた跡が見える。ウルゴーンはその光景に唖然としていた。
「今だ! 殺れ!」
マグナの声が聞こえた瞬間、修也は剣に魔力を込めた。その刀身が青白く光る。意図した訳ではないが、ウルゴーンに向かって跳んでいた修也は、錬剣を振り上げた。
ウルゴーンの眼前に剣先を届かせた瞬間――目の前に、ゴーレムが出現した。
「ぐあっ!」
その拳に殴られて、修也は地面を転がる。壁の方まで飛んでいくと、そのまま倒れた。剣を杖にして立ち上がろうとしたが、また倒れる。
地面に膝をついて、殴ったゴーレムを睨みつける。視界の端にマグナが飛び込んでくる。彼はまだ何かやるつもりのようだ。
「シュウヤ! あいつ何かしてくるぞ!」
そう言うと、マグナは片手を前に出して、その手に青白い光を灯した。その光はだんだんと緑色に変化していく。修也が呆然と見ていた、その直後。
――暴風が、二人を襲う。
「ぐっ!」
修也はその風で壁に叩きつけられた。肺の息が全て出されて、そのまま動けなくなっていると、唐突にその風が収まる。
「マグナ!」
ウルゴーンは、忌々しげにその名を呼んだ。
見ると、マグナもウルゴーンの出した風と同等の勢いで風を放っていて、広間の中心で拮抗状態になっていた。風切り音が周囲に響き渡っていた。
「行けェ!」
マグナはそんな中で修也に呼びかける。
そう――マグナの対応で精一杯になっているウルゴーンは今、隙だらけだ。
「おおおおおおッ!!」
先程ゴーレムに殴られたときの痛みは収まった。修也は足に力を込めて、その場から走り出す。マグナの放つ風に後押しされて、走る勢いが更に増した。
剣を握りしめて、暴風と暴風の中に突っ込む。向こうからの風の勢いが凄まじく、走る勢いが急速に減速した。その風の風圧は、まるで台風の日に外に出た時のようだ。
「ッ!」
これ以上は、前に行けない。何となく、そんな確信がある。
どうすればいい。
そんな事を思った瞬間――風が消え、広間に静寂が訪れる。
体にかかる負担が消えて、修也は勢い良く前に出た。
剣に魔力を込めて、右手に持つ剣を右肩に担いだ。足に魔力を込めて、その場から跳躍する。今度こそ、剣がウルゴーンに当たる――。
「貴様ァ!」
ウルゴーンが向かってくる修也に怒鳴った後、また目の前にゴーレムが出現する。と言っても、先程とは違って腕だけだ。しかも魔力が込められているのか、その腕は青白く光っている。
土の腕が修也を殴ろうと、目の前に迫ってきた。
「ウルゴーン!!」
修也はその腕に剣を振り下ろす。その瞬間、修也の腕に凄まじい衝撃が走る。土の腕と錬剣は、どちらも青白く光っていて、どれだけ力を込めても、拮抗状態から抜け出すことができない。
「ッ!」
剣を両手で持ち、更に押し込む。土の腕に少しだけヒビが入ったのを見ると、修也は更に力を込めた。
「舐めるな!」
ウルゴーンがそう言うと、土の腕に更に魔力を込めたのか、土の腕が更に青白く発光した。修也の腕の負担が更に増して、そこから吹き飛ばされそうになる。
「ぐっ……おおッ!」
剣に力を込めて、修也は踏みとどまった。気がつくと、周りは魔力の光で照らされていて、僅かに風が吹いている。その風は二人の周りに渦巻くように吹いていた。
修也は、ひたすら剣に力を込める。
「さっさとくたばれ!」
「誰がくたばるか! お前がくたばれ!!」
ウルゴーンと修也がそう言った直後――土の腕に、異変が起きる。
ピシリ、と音を立てて、腕にヒビが入ったのだ。
「な……」
ウルゴーンが驚いている中、修也はすぐに事の真相にたどり着く。土の腕に、魔力を込めすぎたのだ。この世界に来て数日経った時、体内に魔力を取り込みすぎて体調が悪くなった時のことを脳裏に浮かべた。
とにかく――今が、好機だ。
「おおッ!」
修也が剣に力を込めると、土の腕が、砕けた。
「うわぁぁぁぁぁぁッ!」
「おおおおおおッ!」
ウルゴーンと修也は、同時に叫んだ。
土の腕が消えて、ウルゴーンの姿が見えたが、その顔を確認するまでもなく、彼の右肩から左脇腹にかけて、剣を振り下ろした。
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