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旅人剣士の異世界冒険記   作者: うみの ふかひれ
第一章 冒険の始まり
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第三十四話『領主ウルゴーン①』

ブックマークにポイントを入れてくださった方。どなたかは存じませんがありがとうございます。

 エドワードの持つ禍々しい剣を砕いた瞬間、彼は糸が切れたように倒れる。彼の持つ左手の剣は、手を固く握りしめていたので、エドワードの手からは落ちなかった。


「はぁ……はぁ……」


 修也はそれを見ると、剣を床に突き刺して座り込んだ。戦闘中に感じた痛みが更に増して、思わず顔をしかめる。手に持つ鞘が、修也の左手から抜け落ちた。


「大丈夫かい? ほら、ポーション」


「ありがとう、クルト」


 クルトから手渡されたポーションを口にすると、開放感と同時に、体の痛みが引いていった。少しだけ眠くなったものの、何とかそれに抗って、修也はその場から立ち上がった。

 

 何度か瞬きをした後に、修也はなぜクルトがここにいるのかを聞こうとした。だが、その前にクルトが修也の疑問に答える。


「なんでここに来たのかって言うとね――」


 その後の話を要約すると、どうやらあの魔道具屋の青年が、クルトをここまで連れてきたらしい。何を考えているのかがよく分からない奴だったが、今回の行動はいつにも増して分からない。


 クルトによると、修也の剣が完成した直後に、突然魔道具屋の青年が現れて、修也が何をしようとしているのかを聞かされたそうだ。


 その後、魔道具屋の青年が転移の魔法を使って、錬剣クルシュを持ったクルトを領主の屋敷に運んだのだとか。


「――まあ、そういう訳で、僕は今ここにいるんだ」


「事情は分かった。しかし、魔道具屋の奴は、何でそんな事をしたんだ?」


 修也がそう呟いた途端、この場にいるはずの無い声が聞こえた。


「そりゃあ、領主の奴をぶっ殺してもらう為に決まってんだろ」


「……魔道具屋」


 クルトが転移してここまで来たというのなら、魔道具屋の青髪の青年がここにいるのは不思議ではない。修也は彼を見てそんな事を思う。

 

 ふと疑問に思ったのは、なぜ魔道具屋の青年は、執拗にエドワードと修也に領主を殺して貰おうとするのか。やり方が回りくどいというか、不自然だ。


「なあ魔道具屋、何でお前は、俺たちに領主を殺させようとするんだ?」


「……領主の奴が、強大な力を持った魔法使いだからだ。それも、俺とタメ張れるほどな」


「まるで、お前が強大な力を持ってるみたいな言い草だな」


「持ってるんだよ。客観的に見て、自分をそう判断した。だからこそ、俺と対等に戦える魔法使いである領主は、最大の警戒をもって殺すさ――なぁ?」


 そう言うと、魔道具屋の青年は、忌々しげに領主の方を向いた。彼に睨まれて、領主は少し焦っている。心なしか動揺しているようだった。


「き、貴様、貴様は――マグナ! マグナ=ポートマン! なぜ貴様がこんな辺境にいる!」


「特に理由はない。俺は旅人だからな、どこにでも行くに決まってんだろ」


 その後、ウルゴーンとマグナは言い争いを始めた。完全に置いてけぼりにされている修也は、クルトに魔道具屋について聞いてみた。


「クルト、マグナ=ポートマンって?」


「……ちょっとした昔話になるけど、いいかな」


「ああ」


「今から十年前、遠いエステル王国で、大規模なクーデターが起きたんだ。その規模は凄まじく、他国からも兵を集めて、一斉に王都を襲撃したそうだよ」


「…………」


「そんな時に、ある七人の探索者が、戦場の前線に現れたんだ。剣士、魔法使い、僧侶、拳闘士、弓使い、刀使い、槍使い。それぞれが規格外の強さを持っていて、十年はかかるはずだった内乱を、たった三日で終わらせた」


「…………」


「で、彼らの名前は歴史に名を刻むことになった訳だけど……」


「その魔法使いってのが、あのマグナ=ポートマンって訳か」


 修也がそれを知ったと同時に、彼らの言い争いも終わったようで、マグナは修也に向かって指示をする。


「おいシュウヤ! 俺も協力してやるから、あのクソ領主をぶっ殺すぞ!」


「……言われなくてもやってやるよ!」


 そう言うと、修也はその場から立ち上がり床に刺した剣を抜いた。ショートソードとは違う重さに多少の違和感を覚えるが、振回せないほどではない。


 マグナと修也が領主を睨むと、領主は慌てたように言った。


「ま、待て! 後悔するぞ、貴様ら!」


「シュウヤ、あいつの言うことは聞くな。自分の部下にエレノア王女を連れ去るように命令するような奴だぞ?」


「分かってるよ。そもそも、あんな奴とは関わりたくもなかった」


「お、気が合うな。俺もそう思ってた所だ」

 

 二人が構えると、領主も覚悟を決めたようで、三人の間がピリピリとした、異様な雰囲気に包まれる。


 戦闘が始まる前に、修也はクルトに話しかけた。


「クルト、エドワードを連れて、屋敷から出ろ。死ぬぞ?」


「……死ぬなよ、シュウヤ」


 そう言うと、クルトはエドワードを背負って、開け放たれた扉から出た。クルトが出た途端、出口の扉がバタンと閉まる。


 領主は、椅子から立ち上がって、床に手を当てた。


「死ねェ!」


 来る。


 そう確信した直後――地面に亀裂が入り、そこから無数の土人形が出てきた。


「屋敷の下の土から、ゴーレムを生成したか」


 マグナはそう呟くと、修也に話しかけてくる。

  

「シュウヤ、この魔法の弱点は、術者が無防備になることだ。俺がゴーレムを何とかするから、お前は領主を殺れ」


「……おう」


 ため息をついて、修也は領主に向かって走りだした。


 土人形――ゴーレムたちは、修也の動きに合わせて走り出す。その動きは単調で、振り下ろされる拳にも難なく対応できた。


「ッ!」   


 一体のゴーレムの頭まで跳躍した後、手に持つ剣を振り下ろす。魔力を込めずとも、あっさりと頭が砕け、ゴーレムはその場に倒れた。


 目を凝らして領主を見る。ウルゴーンは床に手を付けていた。マグナの行った通り、ゴーレムを生成する魔法の弱点は術者が無防備になることらしい。


 修也が足を止めていると、後方から数本の氷の柱が飛んでくる。それらはゴーレムたちの胴体に突き刺さり、あっさりとそれらを倒してしまった。


 マグナの後方支援による物だろう。修也はそれに少し安心して、前に出る。


「おおおおおおッ!」


 エレノアを取り戻すための戦いは、最終局面を迎えようとしていた。


 


 



読んでくださって誠にありがとうございます。良ければ感想、ブックマーク、ポイント等を入れてくれると嬉しいです。作者のモチベーションになるので……

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