第二十七話『新しい防具』
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――三日後。
修也の呟いた最初の言葉は、
「知らない天井だ」
というものだった。
★★★
「はぁ!? 三日!?」
「う、うん」
修也は宿屋からクルトの鍛冶屋に戻った後、クルトに衝撃の事実を聞かされた。
――宿屋から革袋に鞄、装備を着て、クルトの鍛冶屋に来た後、クルトにはものすごく心配された。なぜあんな事をしたのか、その理由を白状させられた後に、自分が三日間も寝ていた事を教えられたのだ。
「三日って……嘘だろ?おい」
「本当だよ。何なら、他の人に聞いてみるといい。それよりシュウヤ、君もうご飯は食べたのかい?」
「いや、今は飯なんてどうでも……」
グゥゥゥゥゥッ〜と、修也の腹が大きな音を立てる。
「……良くないか。なんか食べられる物ってないかな、クルト」
「ていうか、宿でご飯出して貰えてると思ってたから、そんな用意してないよ」
「……携行食で我慢するわ」
「うん」
鞄から携行食を取り出し、口にする。塩の味が口の中を占めたので、鞄の中から水筒を取り出して水を飲む。その動作を繰り返して携行食を食べきると、修也はちらりと鍛冶屋の方を見た。
「所で、俺の剣って今どうなってる? もう少しで完成しそうか?」
「そうそう、インゴットは出来たから、後は打つだけって所まで来たんだよ!」
「おお……楽しみだな」
少しした後に、クルトは愚痴を並べ立てる。
「……大変だったんだよ? 二人で出すはずのインゴットを一人で出して、その上に鎖帷子を先に作っちゃったから、剣の作成にはまだまだ時間が……」
「ちょっと待て、鎖帷子?」
「うん、アドミウムが余ったから、ついでだよ、ついで。もちろん修也用だ」
そう言うと、クルトは鍛冶屋の方に行き、戻ってくると、鎖帷子を修也に渡してくる。
鎖帷子は、細い鎖を編んで作られたものと、太い輪を繋げられて作られた物がある。クルトの作った物は前者の物だった。
その色はアドミウムと同じ青。鎖帷子の作り方を考えれば、クルトがどれだけ苦労したのかが分かる。修也はその鎖帷子を呆然と眺めていた。
「……ありがとう。着てみてもいいかな」
「ああ。服を脱いで、下着の上から着てくれ」
クルトに言われた通り、修也は長袖のシャツを脱いで、下着の上に鎖帷子を着た。その瞬間に、僅かな重量感が修也を襲う。
その重量感は軽鎧を着た時よりも軽く、軽鎧より早く動けそうだった。
「どうだい?」
「なんか……凄いな」
鎖帷子の特徴として挙げられるのは、その防刃製だろう。刃物による斬撃の威力を削ぎ、槍での突き攻撃でも多少は防ぐことができるらしい。
金属板を成形して作る金属鎧に比べるとその防御性は劣るものの、簡単に製作可能で、長時間の着用での軍事活動が可能になる。
そして、このアドミウム製の鎖帷子は、上記の特徴を更に助長しているに違いない。
「作り方については割愛してもいいかな?」
「おう」
そういった後、修也はその場で軽く跳んでみる。身体能力を魔力で強化しているので、元いた世界では考えられない高さまで跳ぶ事ができた。
「じゃあ、僕はこれから剣の作成に取り掛かるから、少し時間を潰していてくれ」
「分かった」
そう返事をした後、修也は鎖帷子の上に長袖シャツを着て、ショートソードを腰に吊るして鍛冶屋を出た。
★★★
修也は村の中を歩きながら、色々と考えを巡らせていた。
まず最初に考えたのは、あの後のエレノアの動向。魔道具屋の青年が何かしらの魔法を使って消えたのを目撃してしまったのを鑑みると、エレノアがどこかに連れて行かれたのは間違いない。
そのどこかについては検討がついている。領主の館だ。エレノアはエステル王国の王女であり、その身分を利用して、ここの領主はエレノアを人質に取り、身代金を王国に要求しようとしている、と。
魔道具屋の青年が魔法使いである事は、一ヶ月前にエドワードと魔道具屋の青年との話に聞き耳を立てたので聞いていた。領主には、エレノアを誘拐するようにと依頼されたということも、聞いてしまった。
魔道具屋の青年は、ここの領主を嫌っているのもしっていたので、少なくともエレノアに手は出さないと、そう思っていた。まさかそれが裏目に出るとは思わなかったが。
あの場での魔道具屋の青年の登場は、全くの予想外。邪魔されることも無く、エレノアを助け出せると思ったら、このザマだ。正直に言うと、魔道具屋の青年についてはノーマークだった。魔道具屋の青年の介入を予想できていたら、あの場で魔力を使い果たすこともなかっただろうに。
「…………」
他に気になるのは、エドワードの動向だ。なんとなく予想できるが、可能性は無数にある。この村の人物は、誰もエドワードの動向を知らないと見ていい。
まず一つ、エステル王国に帰ったという可能性。
これは無いだろう。エドワードがエレノアを連れ去られて黙っているとは思えないし、帰ったのなら城に乗り込んで鉄拳制裁だ。
あの戦いで死んだ可能性。
もしかしたら、修也が気絶している間に何者かに襲われて、そのまま殺された……。
「ないな」
頭を掻いて、その可能性を否定する。
というか、可能性は一つしかない。
「領主の館に乗り込んだ、か」
絶対にそうだ。むしろ乗り込まなかったらエドワードは一体何をしているのか。
「気絶しなかったら一緒に行ったんだけどなぁ……」
今更になって、自分の行動の計画性の無さに失望する。そもそも、あんな規模の《魔力物質化》をしたこと自体、修也は信じられなかった。
自分の中の魔力をかき集めてあの大きさの光の剣を出した。それはやった本人なので分かっている。だが、なぜ光の剣を出してまであんなことをしたのかは分からない。
「…………」
頭を掻きむしって、あの時に何を思っていたのかを思い出す。
「……あ」
そう、確かあの時、斬りかかってきた騎士に言われたのだ。何と言われたのかは覚えていないが、こちらを見下すようなことを言われた気がする。
言われた瞬間に思い出したのは、かつての学生生活での思い出。嫌な記憶。自分が何をしても良いと思っているクソみたいな連中の、言葉を数々。
「あ、そうだったそうだった」
自分自身の不可解な行動に、妙に納得がいった。修也は昔から人にいじめられていたので、その時の光景が思い出される発言には敏感なのだ。
それこそ、聞いただけで怒る程に。
「…………」
思考を切り替える。
これから自分はどうすればいい。
これまで通り迷宮で金を稼ぎ続けるのか、前から決めていた他の国に行くのか。まあ何にせよ、クルトの作る剣が完成してからの話になる。
今自分が何をするべきか、そんなことも分からない訳ではない。むしろ目的がはっきりしている上に分かりやすい。
「エレノア……」
そう、エレノアだ。
エレノアは、この世界での数少ない友達である。
――何をするべきかは、とっくに分かってるだろ。
「……準備、するか」
修也は、エドワードと同じく領主の屋敷に乗り込む為の準備をしようと、道具屋に立ち寄った。
この時の修也は気づいていなかった。
エドワードがこの村に戻ってきていないのが、どういう事なのかを。
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